テレビドラマの最大の楽しさは、人との出会い
原作では峰岸は「オフィス清掃員の顔と名前を覚えること」「社史を覚えること」「役員の名前を覚えること」など出世の裏技を授けます。舞台が現代に代わったドラマでは、設定は少し変化していますが、要は社内の人脈を広げるということなのかもしれません。その一方、映画や連続ドラマへの出演が途切れない江口さん。まさに出世街道にいるように見える彼女ですが、その働き方や在り方は「出世するにはちょっと悪女(わる)にならないと」という、峰岸や麻理鈴とは違う、どこか淡々とした印象です。
「本当は、朝、8時開始だとしたら、夕方5時には終わりたいなというタイプです。朝昼晩と、現場でご飯食べるのは寂しいです。仕事とプライベートのバランスはとりたいほう。仕事仲間は、先輩であれ後輩であれ、プライベートで付き合うことはあまりありませんね。仕事とプライベートで線引きしている、というほどのことではないんです。会いたいと思う人にはプライベートでも会いますし、誘われても行きたくないなと思えば行きません。仕事仲間だからといって全員とご飯食べなきゃいけないってこともないですしね」
アルバイトも含めて、俳優以外の仕事はなかなか長続きしなかったという江口さん。俳優業が続いている理由は、あたりまえだけれど「楽しいから」。特に俳優やスタッフが3ヵ月という長い期間を共に過ごすテレビドラマの最大の楽しさは、人との出会いだといいます。
「この仕事って“誰が一緒か”ってことで、ずいぶん変わってくるんですよね。『あの人と一緒だったからすごく楽しかったなー』とか『この人と過ごせて面白かったな』とか。今回のドラマで嬉しいのは、『地味にすごい! 校閲ガール 河野悦子』『ウチの夫は仕事ができない』などで一緒だったプロデューサーの小田玲奈さんとまた一緒にできること。彼女と一緒にやった時に『テレビドラマ面白いなー』って思ったんですよね」
演劇も映画もドラマも、芝居をするのは同じ。でも環境はそれぞれに大きく異なります。ドラマはシビアな時間管理の中で撮影を終わらせなければならず、撮影しては「はいOK」「はいOK」と進んでいくスピード感に、かつてはモヤモヤすることも多かったのだとか。
「でもある時に『時間がなくてもどかしい思いしてるのは自分だけじゃない。みんなもその中でやってるんだ』ってことに、急に気付けて。ずっと下を向いて仕事をしてたのが、その瞬間から前を向いて仕事できるようになったっていうのかな。スタッフさんのことも意識できるようになったら、『こんな面白い人がいるんだ』といろんなことが面白くなってきて。みんな同じ状況を戦いながらいいものを作ろうとしているんだから、自分も限られたその時間の中でやればいいだけのことだったなって思って。そこからパッと視野が広がった感じです。何でしょうね、ちょっと言い方が難しいんですけれど、悪くないなって思えたんですよね」
そして、俳優業だけ続いている最大の理由は「難しいから」。
「自分で上手く演じられたと思っても、単に自分の中で悩みとかモヤモヤがなかっただけで、それがイコール“上手い演技”ってわけじゃないじゃないですか。それで満足して終わってしまうのは、つまんないですよね。達成感っていうのは、なかなか得られないです。1日撮影して家に帰ってから、今日のは良くなかったな、何か違うなって思ったまま、ずっと過ごすこともありますし、達成感があったと自分が思っても、出来上がりを見たらすごいつまんなかったりっていうこともありますし。この仕事って難しいんですよ。正解がないから、自分でもわからないうちにムキになってしまって。でもちょっと難しいことのほうが面白いと思える、私は絶対にそういうタイプなんですよね」
江口のりこ Noriko Egutchi
1980年、兵庫県生まれ。99年に劇団東京乾電池の研究生、2000年に入団。映画『金融破滅日本 桃源郷の人々』でデビュー。04年『月とチェリー』で映画初出演。ドラマ『半沢直樹』『その女、ジルバ』『俺の家の話』など話題作にも多数出演。2022年はドラマ『鎌倉殿の13人』のほか、『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』、『ソロ活女子のススメ2』にも出演。映画『ツユクサ』、『川っぺりムコリッタ』、舞台『お勢、断行』など多数の出演作の公開が控える。
【写真】江口のりこさん、クールな魅力と存在感
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<ドラマ紹介>
日本テレビ系水曜ドラマ
『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』
毎週水曜22時~(初回:4月13日(水)のみ21時54分~)
キャスト:今田美桜、江口のりこ、鈴木伸之、高橋文哉、向井理 ほか
原作:深見じゅん『悪女(わる)』(講談社『BE・LOVE』)
脚本:後藤法子、松島瑠璃子
演出:南雲聖一、内田秀実、山田信義
プロデューサー:諸田景子、小田玲奈、大塚英治、平井十和子
チーフプロデューサー:田中宏史
制作協力:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
撮影/Junko Yokoyama ( Lorimer management+ )
スタイリング/三好マリコ
ヘア&メイク/末武美穂
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)
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