平日夕方の情報・報道番組「Nスタ」の総合司会でお馴染みのTBSアウンサー・井上貴博さん。2022年4月2日からは、自身初となる冠ラジオ番組「井上貴博 土曜日の『あ』」がTBSラジオでスタートしました。「Nスタ」にラジオ番組が加わり、“週6”で生放送をこなす井上さんに、アナウンサーとして日々思うこと、そしてニュースを伝えるプロとして大切にしていることをインタビューでお聞きします。

 


井上貴博(いのうえ・たかひろ)さん
TBSアナウンサー。1984年、東京都生まれ。慶應義塾大学 経済学部卒業。中学・高校と野球部に所属し、大学4年間は高校野球部の学生コーチも務める。2007年にTBSに入社。情報番組「朝ズバッ!」「あさチャン!」「ビビット」などを担当したのち、2017年4月からニュース番組「Nスタ」平日版の総合司会を務める。2022年4月には自身初となるラジオの冠番組「井上貴博 土曜日の『あ』」がスタート。先日発表された「第30回橋田賞」では、日本人の心や、人と人とのふれあいを温かく取り上げた番組や人物を顕彰する賞、「橋田賞」を受賞した。


“ドラえもんの空き地”のような空間に


――まずは、ラジオ番組「井上貴博 土曜日の『あ』」の初回放送を終えた感想を教えていただけますか。

井上貴博アナ(以下、井上アナ):いやぁ、緊張しました。番組を聴いてくださったリスナーの皆さんをはじめ、番組にお金を出してくださったスポンサーさんにも感謝しかありません。実はこの番組、リスナーの皆さんと“ドラえもんの空き地”のような誰でも立ち寄れるような場所を作りたいという思いで企画書を書いて、自分の足でスポンサーさん回りをしたんです。30代半ばのよくわからない男がやる番組なんてリスクしかない。しかもこのご時世です。それでも、“井上くんがやるなら”と協力してくださったことに、僕の全てをかけてお返していこうと思っています。何だか最近は感謝の言葉しか出てこないんですよね。これまでずっと会社に楯突いてやってきたのに、自分でもつまらない人間になったなと思います(笑)。

 

――「会社に楯突いてきた」のはなぜでしょうか……?

井上アナ:学生時代からテレビというメディアに対して、懐疑的な感情を抱いていました。でもだからこそ、変えたいことがある。そう思って局アナとして15年間働いてきました。今テレビがボロクソに言われてしまうのも、我々の傲慢な仕事の進め方のツケが回ってきているのだと思っています。とはいえ、入社から15年経った今では愛社精神も生まれていて。テレビは終わりに向かうメディアかもしれないけれど、もう一度「意外と面白いかも」と思ってもらえるように現状をひっくり返したい。そんな思いがとても強いです。


自分に合うかどうかより「人として成長できるところ」へ行く


――なぜ、それほどまでに懐疑的だったんですか?

井上アナ:「俺たち・私たちが世の中を動かしている。西麻布の街を肩で風を切って豪遊している」そんなイメージを勝手に持っていました。ですから、テレビ自体もあまり見ていませんでした。じゃあ、なぜお前はTBSに入社したんだ? という話になりますよね。

――はい、すごく気になります。

井上アナ:本当は商社やベンチャー企業に就職したかったんです。就職活動も当然、そういった企業を中心に応募していました。最終的な進路を決めあぐねていた時、先輩方からは「自分と気持ちの合うところ、いいなと思えるところに行けるのが幸せだよ」と助言をいただいた。なるほど、たしかにそうだなと思いました。思いはしたのですが、僕のあまのじゃくな性格にスイッチが入って、それなら逆に「嫌いな人がたくさんいるところに行った方が、人間として成長できるはずだ」という結論に至った。これも、TBSに入社した理由の一つです。

――真逆に行かれたわけですね! ですが以前、「高校野球のコーチをしていた時に、インタビューを受けたことがきっかけでアナウンサーになろうと思った」というエピソードを拝見したのですが……。

井上アナ:正直に言うと、それはTBSに応募する際に使った就職活動のネタです(笑)。でも、完全な嘘ではないですよ。高校野球の学生コーチを務めていた時、MBS制作の甲子園特集の番組でインタビューをしていただいたことがあって。そこでアナウンサーという職業に触れて、何かを変える可能性のある職業なのかもれない……ということは感じていました。

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お話を伺った日は、ラジオの初回放送に、音楽イベント「木梨フェス 大音楽会」への出演と大忙しの1日。ステージのために着用したシックな黒のスーツ姿で、笑顔で取材に応じてくださる井上さん。