認知症の早期診断・早期治療が大事な理由
まず前提として、「認知症は治る病気ではないから病院にかかっても意味がない」という認識は誤りです。たとえば認知症の前段階と言われる「軽度認知障害(MCI)」は早期発見と予防が重要ですし、認知症の2~3割を占める「脳血管性認知症」はリハビリや血管障害の治療で回復することもあります。
また、根本的な治療薬ではありませんが、「アルツハイマー型認知症」では4種類、「レビー小体型認知症」では1種類の抗認知症薬が認められており、服用することで進行を遅らせ、初期から使い始めると健康な時間を長くすることもできます。
厚生労働省が行った「国民生活基礎調査(2019年)」によると、要介護者が介護を必要とした主な原因は、認知症が24.3%と最も多く、次いで脳血管疾患(脳卒中)が 19.2%となっています。
認知症を発症すると、介護費用の面でも負担が膨れ上がります。家計経済研究所が2016年に実施した「在宅介護のお金とくらしについての調査」によると、同じ要介護度であっても認知症の程度によって支出額は異なり、月平均1万円前後も差があります。
中でも要介護3で認知症中度の方は、月平均7.4万円と全体平均に比べて高額の支出となっています。要介護者本人がある程度活動ができ、その上認知症が認められた場合は、徘徊などの見守りなども含めてホームヘルパーやショートステイなどの介護サービス利用のニーズが高まる傾向にあるとも言えます。
また、以前こちらの連載でも紹介したように、認知症が進むと本人の資産があっても介護費用に充てられなくなってしまったり、スムーズに相続手続きを進められなくなるなど、金銭面での負担も非常に大きいのです。
「嘘をついて無理やり病院へ連れて行く」はNG
認知症の診療は、精神科、脳神経内科、脳神経外科、老年科、もの忘れ外来など多くの科で行われていますが、家族に認知症の疑いがある場合、どのように病院に連れて行けば良いのでしょうか。
周囲が何か様子が変だと気が付く認知症初期の段階では、本人はまだ人物や場所の判断ができます。そのため、「買い物に行くから一緒に行こう」などというすぐにわかるような嘘で連れ出して受診すると、その後、騙されたと思って気分を害してしまいます。
また「健康診断に行こう」「私の体調が悪いから病院に付き添って」とお願いして連れ出すという方法もよく紹介されていますが、個人的にはあまりおススメしません。
なぜなら認知症の検査は一般的な健康診断とは検査項目が異なるため、勘のいい人は何かおかしいと感づきますし、家族の付き添いなのになぜ自分が診察を受けるのかと不信感を抱くようになり、信頼関係が保てなくなるかもしれません。それが起因で病院に行きたがらず、通院拒否にでもなったら本末転倒です。
比較的素直な性格の親の場合
受診してもらう方法は、親の性格によって異なるので一概には言い切れませんが、あえてコツをお伝えします。
正直に「このところ少し様子が変わったように思うから、一度病院に行ってみない? 心配だから」と、家族が心配をしていること、いつまでも元気でいて欲しいから念のため専門家に診てもらうと安心するということを伝えましょう。他の持病があったり、頭痛や気だるさを訴えているようなら、それをきっかけに「安心だから頭の検査もしておこうか」と受診を促すのも良いでしょう。医療費3割負担の場合、MRI検査と問診で7000~12000円前後が目安です。
プライドが高く頑固なタイプの親の場合
プライドが高く頑固なタイプの親の場合は、健康チェックと称して脳ドックを予約してしまうのも手段の1つです。認知症は、脳の萎縮を診ることである程度の診断ができます。ただしあくまでも予防のためと伝えましょう。かかりつけ医がいる場合は協力をお願いし、専門医の紹介状を書いてもらったり、かかりつけ医自身がMRIやCTなどの脳の画像検査が可能な場合は「ついでに脳のチェックもしておきましょうか」と検査に加えてもらうのも良いかもしれません。脳ドックの費用はおよそ2〜5万円です。
自ら出向いて病院に行くことを拒否する場合
自ら出向いて病院に行くことを拒否する場合は、認知症初期集中支援チームを活用してみてはいかがでしょうか。この制度は2015年から厚生労働省が始めた取り組みで、認知症の知識を持つ専門職が認知症が疑われる人を訪問し、専門医療機関の受診、認知症の状態に応じた助言などもしてくれます。
まだ全国すべての市区町村に普及しているわけではないので、希望する場合は親の住む市区町村の役所か地域包括支援センターに電話で問い合わせてみましょう。集中支援チームがなかったとしても、相談先を紹介してくれます。家族の忠告は聞かないけれど、医療系の専門家の話は聞くということはよくあります。なお、認知症初期集中支援チーム活動にかかる相談や支援費用は無料です。
親のタイプ別・認知症の早期受診の勧め方についてはこちら
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写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子
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