科学や数学の世界では、名前が冠された数式などがありますが、名づけられた研究者たちの生涯を知ると、その名が重く価値あるものだと実感できます。実在の18世紀の女性数学者ソフィー・ジェルマンをモデルにした『天球のハルモニア』の1巻が7月7日に発売されました。

『天球のハルモニア』(1) (アフタヌーンKC)


パリのエッフェル塔の胴回りに彫られた科学者たちの名前の中にソフィー・ジェルマンの名はありません。ですが、彼女はエッフェル塔の建造に関わっていたのです。ソフィーは幼い頃、いつも何かの数式を紙に書くのに夢中で、神父さまが持ってきてくれる新しい学術誌に心ときめかせる女の子でした。

 

世界初の理工学専門の国立学校(アカデミー)にソフィーは感激するも、自分には入学資格がないとすぐに知るのでした。

 

彼女の幸せは数学を知ること。けれども父親は、数学に夢中になっているソフィーが理解できないようです。神父さまに父親は言います。

 

女性は学問をするものではないとされていた時代。神父さまは、ソフィーが数学に興味を持ったのは数学の問題に夢中になるうちに兵士に殺されてしまった偉大な数学者・アルキメデスに感銘を受けたからだと言います。
「わたしもそんな 一生夢中になれる出会いがしたい」
やはり理解しがたい。そんな父親に神父様はこう問いかけました。「確かに 今の世の中 女性にとっての幸せは良い男性と巡り合う事でしょう ですが、ソフィーさんの幸せは本当に同じものなのでしょうか?」

 

その夜、ソフィーは「礼儀作法の復習」として父親に夜会に連れていかれます。お淑やかにするのに疲れた彼女はそっと会場を抜け出した時、カードゲームでギャンブルをしている男装の麗人と出会います。

 

「あれ……どうして?」大人たちが興じるカードゲームの「数字」を見ているうちに、ソフィーはイカサマがあることを発見し、思わず口に出してしまいました。ざわつく場。「今の話もう一度よく聞かせてくれないかい?」彼女は大人たち相手にイカサマの「証明」をすることに。それがもう鮮やかなるもので、将来の片鱗が見えるよう!

でも、まだ道のりは遠く険しいことが1話ラストのト書きから伝わります。

 

彼女はこれらのハードルをどう超えていくのでしょうか。中でも女性禁制の国立学校に入学するための作戦がすごい! 後世にも伝わる彼女の通り名にも表されるほどインパクトのある大胆なものでした。こちらは是非本編で読んでみてくださいね。

ソフィーの「数学への夢中」を後押しする神父様の言葉も印象的です。
 

 

「ソフィーさんが生み出す何かもきっと世界中の皆に愛されることになる!」
数学に詳しい方なら彼女の名前を聞いただけでピンときていたかと思いますが、現代では、ソフィー・ジェルマンの名前が冠された素数や因数分解公式が存在し、数学の世界で当たり前に使われています。

「女だから」という偏見に屈することなく、自分が夢中になれる数学の道をあきらめずに突き詰めていったソフィーの生き方は多くの女性を励まします。男性社会での価値観や常識に囚われず、正攻法じゃなくてもいいと彼女が身をもって「証明」したんだ! そう思えます。

最後に気になるのはタイトルの意味。ハルモニアとはギリシャ語で調和という意味。天球とは地球を取り巻く仮想の球面。いったい何を表しているのでしょうか。様々な障害を乗り越えてゆくソフィーの人生のどこで"タイトル回収"がされるのかも楽しみです。

 

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『天球のハルモニア』
光城 ノマメ (原著)  しまな 央 (著)

「女性の幸せは、素敵な男性に見初められて結婚すること」と信じられていた十八世紀末のパリ。布地店の娘・ソフィーは寝ても覚めても数学のことを考える日々を過ごしていた。最初は家族にも理解されなかった夢のはずが、彼女の“夢中”な姿は周りを巻き込み、いつのまにか誰もがソフィーを応援してしまう!


作者プロフィール 
光城ノマメ

大阪生まれ。趣味はTRPG。好きなアニメ映画は「たまこラブストーリー」。

しまな央
埼玉県出身。出張編集部に持ち込み、「good!アフタヌーン」2022年2月号から連載『天球のハルモニア』作画担当でデビュー。



構成/大槻由実子
編集/坂口彩