ある日突然BTS(防弾少年団)に“沼落ち”したという小島慶子さん。

今やK-POPアイドルの枠を超え、全世界を席巻するBTS。なぜ彼らはここまで爆発的な人気を得たのでしょうか。BTSがどんなメッセージを発し、世界中の人々の価値観にどのような影響を与えてきたのか……。本連載では小島さんが、様々な立場の“BTSに精通する人々”との対話を通して、『BTS現象』を紐解きます。

今回は、韓国の社会学者であり、自身もARMYであるイ・ジヘン氏と小島さんのオンライン対談が実現。

イ・ジヘン氏は、ファンダムの視点からBTSを分析した名著『BTSとARMY わたしたちは連帯する』の著者でもあります。

さまざまな人種、年齢、性別の人々が、BTSが好きということだけを拠りどころにして連帯し、社会に働きかけようとするのはなぜなのか? ARMYという存在を社会学的な見地から掘り下げるべく、2回にわたって対談をお届けしています。

※対談は2022年5月末に行われました

 


前回記事
BTSファンにミドルエイジの女性が多い理由。ファンダム研究の先駆者と小島慶子の対談をお届け!>>

なぜBTSを支えるファン“ARMY”は何が起きても対話を重ね、「連帯」を諦めないのか?_img0
写真:アフロ


スターになったBTSは、もはや弱者の代表ではない?


小島慶子さん(以下、小島):前回は、BTSがグローバルなファン層を獲得できたのは、彼らが非主流からスタートしたことが大きかったとお話しいただきました。英語圏の白人男性の覇権が長く続いている世界で疎外されていたさまざまな属性の人たちが、BTSに自身を重ねて、勇気づけられているということなのですね。

ところが、今はアジア人であるという点でのマイノリティ性はあるけれど、アメリカの音楽業界でBTSは何度も大きな舞台に上がるスターになりました。そうなると、当初からのファンが親近感を抱きにくくなる面もあるのではないですか?

イ・ジヘンさん(以下、イ):客観的に見ると、HYBEも語っているようにBTSは世界最高のアーティストになったわけではありません。まだ世界に知ってもらった程度で、グローバルな影響力を持っているナンバーワンではないと言っているし、そう感じているファンが多いのではないでしょうか。「もうアンダードッグ(弱者)ではない」という人もいますが、それは錯覚ではないかと。

なぜなら、私たちが住んでいる世界には数百年にわたり欧米中心の支配が存在しています。少しは変化があると思いますが、BTSの活躍がそれを完全にひっくり返したとは思いません。今は多様性やインクルージョンを強調する時代ですが、すべての人が平等、つまり国家、宗教、肌の色を超えて平等になるというのは、人類の歴史を鑑みてもまだまだ難しいと思います。だから、BTSの旅路はまだ先が長く、これからやらねばならないことがたくさんあるのです。

次ページ▶︎ BTSが韓国語でグローバルを制した功績は、ワールド杯優勝と同じようなものではない

4枚で分かるARMY基礎知識
▼右にスワイプしてください▼