アーティストとファンが相互作用で社会を変えていく未来


小島:それだけ影響力が大きくなった今、これからBTSとファンダムがどうなっていくのか、イさんのご見解が知りたいです。個人的には、BTSも全員が30代になってくると、新たな10代のファンを獲得するというよりは、今いるファンたちと一緒に年を重ねていくのかなという気もします。

イ:ARMYがBTSに対して望んでいるのは、60代や70代になっても世界ツアーができるアーティストになることです。U2やロックバンドのように、いつまでも生命力を保つグループになれば……と、長い目で見ています。兵役など、世界的な影響力は失うタイミングがあっても、数十年という未来を考えると短い瞬間であり、若いBTSにとってはたいした問題ではないと考えるARMYがたくさんいます。

私としては、ファンダムがどれだけ拡大するかよりも、ファンダムがどのように新しい方向に向かうのかが興味深く感じます。今、BTSの世界的なムーブメントを起こしているのは、実際はARMYたちなのです。ARMYのなかで、BTSに関係しようがしまいが、新しい世の中に向けた動きや会話がどのように広がっていくのかが気になります。

小島:もう一点、今後HYBEはどんなビジネス展開をしていくと思いますか? 今や日本とアメリカでも展開する巨大な総合エンタメ企業になり、新しいアイドルグループもデビューしていますね。この先はメタバースなども活用しながらシェアを広げていくのでしょうか?

写真:Lee Jae-Won/アフロ

イ:今後について、HYBEはITプラットフォームになると明言しています。以前はコンテンツをYouTubeやNAVERなどで流していましたが、それらのプラットフォームの影響力に左右されないように、自分だけのプラットフォームを持つことが大事だと考えているようです。BTSというすべての人がほしがる知的財産を擁しているので、それを流通させるプラットフォームを持つのは当然の戦略かもしれません。NFTやメタバースも含めて、知的財産を利用してできるあらゆることを試みようと努力しているように見えます。

 

小島:最後の質問です。世界にさまざまなファンダムがある中でBTSのファンダム=ARMYでは、絶え間なく対話を交わして、より良い世界を模索しようとしています。そうした対話が自発的になされるのは稀有なケースだと思いますが、改めて、なぜこんな独自の生態系が完成したのでしょうか?

イ:理由はいろいろありますよね。BTSは物質的な存在に留まらず、社会的な変化について語っているという満足感をもたらせてくれる存在。華やかなステージに満足するのではなく、そこからさらに広げ、自分の満足感を社会的に広める方法はないだろうか……と。そういうことを望む人が、ファンには多かったのではないでしょうか。

整理すると、BTSのマイノリティとしての立場に共感する多くの人たちがファンになり、そのファンダムにおいて、BTSを好きであることは単純にアーティストが好きというだけでなく、一種の社会運動だったのだと思います。だから、ファンが社会に役立つことを積極的にするのは当然の結果ではないでしょうか。

小島:日本のARMYに伝えたいことがあれば、ぜひお願いします。

イ:もはや「BTSが世界で一番か?」「欧米でメインストリームに入り込んだのか?」という質問は意味がないのではないかと思います。欧米で認められることを最高の目標にするのは、私たちが欧米中心のヘゲモニーを打ち破るのではなく、むしろ拡大させているに過ぎないからです。

欧米で認められるのが一番重要なのではなく、アーティストとファンの間に過去に目撃されなかった新しい方式の相互作用が起きていて、それが社会的に拡張されて力を発揮しているかに注目すべき時ではないかと考えています。

小島:本当にそうですね。ありがとうございました。

『BTSとARMY わたしたちは連帯する』
イ・ジヘン 著
桑畑優香 翻訳
2021年2月17日発売
46判 224頁
発売・発行:イースト・プレス

BTSはいかにして海外でパワフルなファンダムを集めたのか。なぜ海外の音楽チャートで強いのか。彼らが社会活動をする理由とは。熱烈なARMYで社会学者の著者が、ファンダムの視点からBTSを分析。日本語版には、古家正亨氏特別インタビュー「彼らは世界を一つにする象徴だから」を掲載。


取材/小島慶子
翻訳/桑畑優香
対談・文/浅原聡
 

 


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