パンデミックは超ド級の台風のようなもの


出口さんはリハビリだけでなく、3年近く世界に暗い影を落としているコロナ禍に対しても後ろ向きになることはありませんでした。その気持ちを支えていたのは、やはり「知識の力」だったようです。

「2020年以来、新型コロナ禍で我々は多くの制限を受けるようになり、それが当たり前のような雰囲気もあります。しかもウクライナで戦争まではじまり、チャレンジしようといわれてもピンとこない人がいるかもしれません。しかし歴史を振り返れば、感染症の大流行は世界で数多く起こってきました。

30億年前から地球上に存在するウイルスは、たかだか20万年程度のホモ・サピエンスとは比べ物にならない大先輩です。この大先輩は普段、森のなかに住んでいて、何らかの機会に動物を介して人間と出会います。つまり、パンデミックは自然災害なのです。超ド級の台風のようなもの、あるいは火山の大噴火や隕石の衝突と同じだと考えてもよいでしょう。

ダーウィンの進化論によれば、こうした歴史的な大災害は予測不可能です。強い者や賢い者が生き残るのではなく、人間にできるのは運に頼り、適応するだけ。それがダーウィンの教えです」

 


変化はチャンス。大災害で世界が変わるのは当たり前


人間にできるのは運に頼り、適応するだけ──出口さんが苦境を乗り越えることができた最大の理由は、我慢強さや胆力といったものではなく、この柔軟さにあるのだと筆者は確信しました。

「一定の確率で起こり得るのは理解できるけれど、いつ起こるかは誰にもわからない。そして、歴史的な大災害が発生すれば、その後の世界が変わるのは当たり前の話です。歳の近い友人が今回の新型コロナ禍について『自分が死んでから発生したらよかったのに』とぼやいていましたが、僕は逆です。こういう世界が見られて面白いと思っています。変化はチャンスです」

 

『復活への底力 運命を受け入れ、前向きに生きる』
著者:出口 治明 講談社 990円(税込)

脳卒中を発症し、歩くことも話すことも困難な状況から、持ち前の楽観主義で元気にリハビリに挑み、みごとAPU学長に復職。超人的な復活を見せた著者が、闘病の様子やそのときの心境、心の支えになった「知識」などを、詳細かつ分かりやすく書きつづります。人生の困難を乗り越えるためのヒントが詰まった一冊です。


構成/さくま健太