失敗もあった。選択をした。だからこそ、書ける物語がある
——それは何歳ぐらいの時でしたか?
「35歳で専業主婦から作家になり、その後、離婚してから仕事漬けの日々が始まりました。作家としてすぐに人気が出たわけではないですし……その後は『流浪の月』で本屋大賞を受賞することができましたが、作家としては遅咲きの部類に入ると思います」
——ミドルエイジの女性にとっては、すごく希望を抱けるお話です。
「まだまだ、これから何でもできる世代ですよね。私の人生は紆余曲折だらけで、失敗ばかりしてきたんですよ。でも、順風満帆な人生だったら小説を書けなかったと思うし、失敗してきたからこそ書ける物語もあるので。そう考えると、すべての失敗が私の財産です。
そもそも、迷いも失敗もない人生なんてあり得ないですよね。私も今でも、まだまだ迷いだらけです。きっと、すべての人が迷いの中で生きていると思うし、私は自分の中にあるモヤモヤを少しでも整理したくて小説を書き続けているのかもしれません
今作の登場人物たちはみんな、世間一般から見たら『正しく』はないんです。だけど、では本当に『間違っている』のか、というとそう単純ではない。『間違っている』『普通ではない』『おかしい』って、何を基準にして? という思いはあります」
——暁海や櫂も、間違った選択を犯しながらも、最終的に自分にしかたどり着けない場所に辿り着きました。
「ここまでキツい話になるはずじゃなかったのですが……。でも『流浪の月』を受け入れてくださる方が多かったように、私が思っている以上に、この世界が生きづらいと感じている人が多いのではないかと。
恋愛小説を書くということは、その人たちの人生や、生きている社会を描くことと同じです。私としては、登場人物だけでなく、読む人の人生にも踏み込むくらいの覚悟を持って、これからも書き続けたいと思います」
<新刊紹介>
『汝、星のごとく』
凪良ゆう 講談社
¥1760
その愛は、あまりにも切ない。
正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。
ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。
ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。
撮影/市谷明恵
取材・文/浅原聡
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