もしも倒れてしまったときも、笑顔で起き上がりたい
自分の意志や努力ではままならない状況を、楽しめることもあれば、そうじゃないときも。それがバイオリズムということなのかもしれないけれど、今井さんは「ちょっと前まではしんどかったです」と振り返ります。
「年齢的なものによる体力や身体的な変化なのか、コロナ禍での閉塞感が原因なのか、いろんなことが相まって、外側に発散できず、自分の内側で発酵している感覚がありました。それが、今年の4月に59歳になったときに、『あれ? 今いくつだっけ?』と自分の年齢を忘れることがあって。60歳の前のキリの悪い中途半端な感じが、なんだか緩くていいな……とストンと気が楽になりました。来年の4月からは周りの人たちからも「おめでとう〜」とお祝いされたり、イヤでも〈還暦の人〉として意識していく毎日になるんでしょうから、今の中途半端さがラクで気持ちいいです(笑)」
変化していくことを肯定的に捉えている今井さん。その根底にはとても怜悧で、ある意味残酷ともいえる、「変化」の解釈がありました。
「生きている限り、人は変化をし続ける。それは、成長していくだけでなく、落ちていく、朽ちていくということでもありますよね。でも、気持ちよく朽ちていきたいじゃない? 私は朽ちるということを、あまりネガティブに思っていないんです。坂道を降りているのは当たり前。ただ、ごろごろごろ〜っと転げ落ちるのではなく、そろそろそろ〜っと歩くのか、自転車でブレーキをかけながらなのかはわからないけれど、自分の意志を持って落ちていきたいですよね。毎年3月11日に、イギリスの日本大使館で東日本大震災の復興支援のセレモニーをやってらっしゃって、最初の何回か、お声がけしていただきました。そこで福島の方からお土産としていただいた、起き上がりこぼしを家に飾っています。すごく福福とした笑顔で、可愛くて、大好きなんです。もし倒れてしまっても、あんな風に、笑顔で起き上がりたいよねって思います」
今井美樹 Miki Imai
1963年、宮崎県生まれ。1986年「昏のモノローグ」で歌手デビュー。CM、ドラマ、映画などで幅広く活躍しながら、「瞳が微笑むから」「PIECE OF MY WISH」「PRIDE」など数々のヒット曲を発表。2020年にはセルフカバーアルバム『Classic Ivory 35th Anniversary ORCHESTRAL BEST』をリリース。2021年には映画『名も無い日』に出演。今秋、ビルボードライブ東京・大阪でライブ開催予定。公式HP imai-miki.net
<作品紹介>
『紅花の守人〜いのちを染める』
語り:今井美樹
監督:佐藤広一
プロデューサー:髙橋卓也
製作:映画「紅花の守人」製作委員会
配給:UTNエンタテインメント
9月3日(土)ポレポレ東中野にてロードショー他、全国順次公開
撮影/塚田亮平
ヘアメイク/福沢京子
取材・文/須永貴子
構成/山崎 恵
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