中年や子どもにも広がるロコモの怖さ
麻衣さんのお母さんのように、入院をきっかけに介護が必要になるケースが増えています。骨折や脳血管疾患が代表的な例ですが、長期の入院による筋力低下も無視できません。
「ロコモティブシンドローム」(通称ロコモ)という言葉を聞いたことはありますか? ロコモとは、運動器症候群のこと。体を動かす力が衰えて、介護が必要になったり寝たきりになってしまったり、またはそのリスクが高い状態になってしまうことです。ロコモになると転倒しやすくなり、大腿骨折などで動けない期間が長引くと、脳への刺激が減って認知症リスクが高まってしまうなど、侮れません。
実はこのロコモ、高齢者に限らず、中年や子どもの間でも問題になっている現象です。ロコモは予備群も含めると約4700万人いると言われ、40代以上の5人に4人がロコモおよび予備群と推定。運動器のトラブルを抱える50代からの患者が急増しています(詳しくは日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「ロコモONLINE」で)。
近年は、姿勢不良や運動不足による「子どもロコモ」も問題視されており、しゃがむと後ろに倒れ込んでしまったり、片足で立てないなどの症状が、子どもロコモの主な症状です。
機能訓練は自分でできる寝たきり予防
そのロコモ予防を目的として行われているのが「機能訓練(体操)」です。機能訓練によく似たものでリハビリテーション(リハビリ)がありますが、リハビリと機能訓練は「医師の指示に基づいて訓練を行なう必要があるか」という点で異なります。
医師の指示に基づくリハビリは、機能回復を目的とした治療・訓練で、理学療法士や作業療法士、言語視覚士などの専門職種が病院で行います。
一方、機能訓練を行う人の職種は特に決まりがなく、日常生活の「できない」を「できる」にするためのものと考えられているため、家族や地域住民など、さまざまな人が関わることができます。そこで今回は、入院中でも患者本人や家族が一緒に行える機能訓練をご紹介します。
①足の筋力低下を改善する体操
麻衣さんのお母さんのように、寝てばかりいるといつの間にか歩けなくなり、場合によっては立つことさえできなくなってしまいます。その原因は、動かないことによる筋力低下です。ベッド上で安静が必要な時でも、関節を動かさないで筋収縮の運動を行うことで、筋力の低下を最小限にすることができます。
身体や筋力の回復を見ながら、段階を追って足踏み運動や歩行訓練へと進めていきます。1つの動作は、ゆっくり丁寧に行いましょう。
②手の握力を改善する体操
病気やケガの後遺症によって握力が低下すると、日常のさまざまな作業が困難になります。そこで足腰だけでなく、握力を改善する動きも積極的に取り入れてみましょう。握力の回復は、指先の動きがスムーズになるだけでなく、脳の活性化にもつながります。
③嚥下機能を改善する体操
食事はただ単に栄養を摂るだけでなく、味を楽しむなど、生きる上での喜びにもなります。ですが食物を飲み込む動作(嚥下/えんげ)がうまくできないと、シニアの場合は誤嚥性肺炎や窒息といった重大な問題を引き起こしてしまう危険性があります。そこで簡単にできる嚥下体操をご紹介します。食事の前などにぜひ行ってみてください。
はり・きゅう・マッサージがロコモ予防に?
日頃から機能訓練をやっていると、体を動かす習慣が付きますし、入院中でも筋力はそこそこ保たれます。一方、放っておくとリハビリが必要になり、余計な時間とお金がかかってしまうなど、良いことは何ひとつありません。そうならないためにも、機能訓練は習慣化したいものです。
また、これまでご紹介したような体操だけでなく、はり・きゅう・マッサージもロコモ予防になると言われています。自治体によっては、高齢者の健康増進と介護予防を目的として、はり・きゅう・マッサージの施術料助成券を配布しているところもあります。必要性を感じたら、ぜひお住まいの自治体で確認してみてください。
■東京都世田谷区
65歳以上の方は、はり・きゅう・マッサージを月に1回1500円で提供
■東京都板橋区
75歳以上の方は、はり・きゅうマッサージ・指圧を年に7回1000円で提供
■神奈川県相模原市
75歳以上の方は、はり・きゅう・マッサージを年に12回1000円で提供
■神奈川県藤沢市
70歳以上の方は、はり・きゅう・マッサージを年に3回無料で提供
■千葉県千葉市
65歳以上の方は、はり・きゅう・マッサージで使える1枚800円の利用券を年に10枚提供 ※所得制限あり
■千葉県船橋市
70歳以上の方は、はり・きゅう・マッサージを年に12回1回800円で提供
ロコモ予防の体操についてはこちら
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写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子
前回記事「いよいよ82歳の母が介護フェーズに。「在宅介護と施設介護」どちらにすべき?」>>
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