離婚・再婚は大きな決断を伴いますが、特に悩むのは、子どもがいる場合ではないでしょうか。
内閣府の調査(※)では、「未成年の子がいる夫婦の離婚」について、「夫婦の一方でも離婚を望んでいるのであれば、離婚した方がよい」と答えた割合が22.7%、「夫婦の双方が離婚を望んでいるのであれば、離婚した方がよい」と答えた割合が36.6%。離婚をポジティブに捉える回答の合計は59.3%と、半数を超える割合でした。(※令和3年:離婚と子育てに関する世論調査)
離婚・再婚は当事者だけでなく、その家族である子どもにとっても大きな出来事です。
この記事では、イタリア在住の作家・佐藤まどかさんが、複雑な家庭の中で揺れる少女の心を描いた新作『雨の日が好きな人』刊行に寄せて、イタリアの離婚・再婚家庭の子どもたちの暮らしぶりを見て感じたこと、自分の子ども時代を思い出しながら、<ステップファミリー>における幸せルールを考察します。
愛の国イタリアでも離婚は増加中
イタリアは愛の国だと言われますが、まさしくそのとおりです。母子の愛がもっとも強いと思いますが、父子、夫婦、恋人、兄弟姉妹、友達など、人間関係の絆がとにかく強いのです。キスやハグなどのスキンシップも、愛情を言葉で伝えることも、日本人ならびっくりするほど頻繁にやります。もっとも、スキンシップは欧米に共通しているものですが。
とはいえ、この国でも離婚が増えてきました。デンマークほどではないにしろ、数年前に手続きが簡略化したため、急激に離婚が増えてきたのです(以前は離婚することが非常に困難でした)。制度が変わったものの、まだ離婚成立には時間がかかります。たとえ双方が納得していても、日本のように書類1枚を役所に提出すれば済むというものではないのです。
それでも、ISTAT(イタリアの国立統計局)によると、2019年の婚姻件数に対し離婚件数はその5割弱になっています。そもそも婚姻件数が減っているというのに、離婚件数が増えている事態です。私のまわりにも、離婚・再婚した人がかなり多いです。
そんなイタリアの離婚・再婚家庭の子どもたちの暮らしぶりを見て感じたことや、自分の子ども時代を思い出しながら、複雑な家庭の幸せルールについて、考察したいと思います。
「パパの彼女」に「ママの彼氏」
娘のクラスメイトのアルディアの親は当時離婚協議中で、話の中によく「パパの彼女が」とか、「ママの彼氏が」という言葉が出てきていました。えっ、離婚が成立していないのに、もうパートナーがいるの? と内心思ったものですが、アルディアはあっけらかんと話してくれました。
お姉ちゃんと一緒に、1週間ごとに同じ市内のパパの家とママの家を移動して暮らしていました。学校関係の教科書や辞書やコンピュータなどは全て忘れないように移動させなければなりませんから、大変です。日曜日ごとのミニ引っ越しを「民族の大移動」などと笑いながらその様子を語ってくれました。両親の離婚については「しょうがない。別れてそれぞれの道を行くほうが健康的だと思うしね!」と、日本の中学生の年齢で笑い飛ばす姿を見て、感心したものです。
明るくサバサバしたアルディアは、すっかり素敵な女性に成長し、イタリアの国立大学院の物理学科を出て、現在オランダで研究員をしています。
揉めるのはクリスマス
金髪で大柄でのんびりした少年、ヤコポの両親も離婚しました。パパの浮気が原因で、相当に揉めて、結局離婚しました。ママは実家の小さなレストランを継ぎ、仕事に没頭することで怒りを鎮め、すぐに恋人ができました。本当に、あっという間でした。
そう、パパがなぜ浮気をしたのかわからないほど、ヤコポのママは、明るくて魅力的な女性なのです。イタリアの男性が放っておくわけがありません。数年後、外科医のパパは看護師さんと再婚し、ママも新しいパートナーと幸せそうに暮らしています。ヤコポも幸い、のんびりした性格のままです。最初のころはパパが出ていったことがショックだったようですが、同じ市内なのでいつでも会えるし、両方の家を行き来して暮らしています。
揉めるのはクリスマスの25日をどっちと過ごすか。イタリアのクリスマスは恋人のものではなく、家族と一緒に過ごすものです。両親や祖父母と集まる大切な日。ヤコポは、イヴの夕食とメインになるクリスマスのランチを、パパもしくはママと代わりばんこに過ごしています。
パパの新恋人は男性
すぐに高級ブランドのモデルになれそうなマッシモのパパとママも、彼が16歳のときに離婚しました。化学者のママと建築家のパパはお似合いの素敵なカップルでした。ある日パパに好きな人ができたから離婚するというのを聞いた私は、動揺しました。
しかも、パパの新しい相手は男性だったのです。ママは当然ショックだったようですが、すぐ離婚に同意しました。こればかりはどうにもならないわ、と彼女は寂しそうに語りました。
パパとママが大好きなひとりっ子のマッシモが心配でしたが、彼は明るくまっすぐに成長しました。マッシモは非常に優秀で、国立大学医学部に合格し、現在は研修医をしています。大学入学と同時に自分も同性愛者であることをカミングアウトし、今では堂々とSNSに恋人との写真を投稿しています。
私が知る限り、親子でカミングアウトした稀な例ですが、家族3人とも今はそれぞれのパートナーと暮らし、幸せそうです。幼いころからマッシモを知っている私は、自分に噓をつかなくて済む社会になって良かったねと、心から祝福しています。
明るく育つイタリアのステップファミリー
他にもたくさんの例を見てきました。夫の従姉妹は子連れの男性と結婚しましたが、生まれた女の子シルヴィアと少し歳の離れた義兄のダヴィデは大の仲良しです。ダヴィデは、互いに再婚したママとパパの家を、アルディア同様行ったり来たりしながら暮らしています。問題になるのはいつもクリスマスですが、毎年交代でイヴとクリスマスを過ごしています。
このように、知っている子どもたちの親の多くが離婚、再婚家庭ですが、皆明るくすくすくと育ちました。また離婚協議中のママやパパは、次のパートナーを見つけるのが早いです。自分が幸せになることが、子どもにとっても幸せであるという考え方があるようです。
日本では家庭崩壊や複雑な家庭という言い方があるように、離婚家庭の子どもが非行に走ったり、問題を抱えるようになることがあると考えられがちですが、イタリアでは違います。
そこで、わりと複雑な環境の子どもたちがなぜ寂しそうでないのか、考えてみました。
家族愛の強いイタリアでは、親が離婚していても、双方が子どもに注ぐ愛情は並々ならぬものです。いつも褒めまくり、愛していると伝え、ぎゅっとハグします。
最初はその家族関係が濃すぎて面食らったのですが、何十人と見てきた離婚家庭の子どもたちが幸せそうに育っているのを見て、納得しました。
子どもの心の問題……親の離婚が原因ではない
子どもが心の問題を抱えるようになる原因は、親の離婚そのものではないのです。その後、親から愛されていると実感できたかどうか。子どもにとって、親に愛されていないと感じることほど辛いことはありません。
逆に、自分が愛されていることを感じられれば、ハードルを乗り越えていけるのではないでしょうか。もし両親がいないのなら、祖父母でも、養父母でもいいのです。
甘やかすこととは違います。躾は厳しくしても、「愛情はたっぷり」と。また、愛情は表現してあげないと、子どもにはわかりません。
子どもに愛を伝えること。自分も幸せになること。
これが離婚・再婚家庭の家族全員が幸せになるためのルールなのかなと思っています。
1970年代前半に離婚した母
このことを確信したのは、自分の子ども時代を振り返って、比較したからでもあります。
私の母は、1970年代前半にすでに離婚し、ウーマンリブ運動に関わっていました。当時、まわりには離婚家庭がありませんでしたから、私は小さいころから複雑な心境でした。兄は当時体が弱かったので母が離さず、私だけ札幌に単身赴任した父にお試しで引き取られました。が、育児能力のない父とうまくいかず、すぐに東京に戻ってきました。
しかし私は顔も神経質な性格も父にそっくりだったので、母と口げんかになると、必ずそのことを言われました。離婚した皆様、子どもが憎き元夫(もしくは元妻)に似ていると批判するのは、絶対にタブーです。子どもにはどうしようもないことなのですから。万が一夫と離婚した場合でも、私は娘にこれだけは言うまいと心に誓っています。
さて、私は現在でいうパワハラ担任から「片親」であることを揶揄され、ついに家事全般をやる良い子を演じるのはやめて反抗的になり、登校拒否までしました。優等生から問題児になるのは、あっという間でした。
子ども時代の経験がきっかけ
母が再婚した相手には、重い病気を抱えるお嬢さんがいました。学校にはパワハラ教師がおり、母の頭には兄が、遠い父の頭には再婚相手が、また義父の頭には義姉しかおらず、自分の居場所はどこにもないと感じていました。あのころ私は、自分の存在価値を見つけるために、もがいていたのです。
こういった自分の経験が、作品『雨の日が好きな人』を書くきっかけになりました。
家族とは、歩みよらないとなれないもの。養父母や血の繫がらない兄妹と家族になっていくことの意味。雨の日に傘をさして外に出られる幸せを嚙み締めること。そして、やがて出る虹を待つように、闇にいる子にほんの少しでも光が見えてくる物語を描きたいと思いました。
どうか世界中の子どもたちが、誰かに愛されていると実感できますように。
『雨の日が好きな人』
佐藤まどか:著
──小学6年生の七海は、お母さんが再婚し、あたらしいお父さんとあたらしいおねえちゃんができて、大喜びした。でも、家族になるのは、そんなに簡単なことではなかった。会ったことのないおねえちゃんに嫉妬し、七海はもがく。
入院中のおねえちゃんは、泣き言を言わないし、弱音もはかず、まわりのことを気遣ってばかりだ。七海はだんだん自分が恥ずかしくなっていくが……
複雑な家庭の中で揺れる少女の心を描いた、うつのみや子ども賞&日本児童文学者協会章受賞作家の感涙小説。
佐藤まどか
『水色の足ひれ』(第22回ニッサン童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞・BL出版)で作家デビュー。主な著書に『スーパーキッズ 最低で最高のボクたち』(第28回うつのみやこども賞受賞)『ぼくのネコがロボットになった』『リジェクション 心臓と死体と時速200km』(以上、講談社)、『セイギのミカタ』(フレーベル館)、『つくられた心』(ポプラ社)、『一〇五度』(第64回青少年読書感想文全国コンクール中学生部門課題図書)『アドリブ』(第60回日本児童文学者協会賞受賞)『世界とキレル』(いずれも、あすなろ書房)など。イタリア在住。日本児童文学者協会会員。季節風同人。
文/佐藤まどか
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