相手にも自分にも敬意を払うのがポイント


「Aさん、今日、家族の誕生日で早く帰りたいんだけど、仕事が終わりそうになくて困っているんだ。手伝ってくれたらうれしいんだけど、どうかな?」
「ええっ! オレも今日、予定があってさ。早く帰りたいんだよな……」
「そっか……。それじゃ、しかたないか。残念だな。でも少しでも手伝ってもらえたらありがたいんだけど、まったくムリだよね?」
「まったくムリというわけでもないけど……」
「それじゃ、1時間とか、30分くらいならどうかな?」
「1時間は難しいけど、30分くらいなら手伝えるよ」
「おお! ありがとう! 30分でも手伝ってくれるとうれしいよ! いやあ、ほんとに助かった!」

このようなコミュニケーションが、非アサーティブ・コミュニケーションとは違う1つ目のポイントは、「相手を責めない」ということです。

2つ目のポイントは、「自分は困っている」「そうしてくれるとうれしい」などと、自分の感情を素直に伝えています。理屈だったり自分の言い分だったりに終始するのではなく、「自分の感情」を伝えた上で頼んでいます。

つまり、相手の気持ちに敬意を払いながらも自分の正直な気持ちを伝えることで、自分にも敬意を払っていることになります。また、完全に断られたのでなく少しでも譲歩してもらえる部分がありそうであれば、お互いを尊重しながら妥協点を探っていく点も、アサーティブです。

 


「自分はいま、どんな気持ちなのか」と自問自答


すぐに怒ってしまったり、我慢をして言いたいことを飲み込んでしまったり、作為的になってしまったりする人は、じつはふだんから、「自分の感情を感じないように」生きています。ですから、自分の気持ちを正直に口にできずに、相手を傷つけたり、自分を傷つけたりするような言動をしてしまうのです。

 

大切なのは、相手に何かを伝えるときに、「自分はいま、どんな気持ちなのか」と自問自答をすることです。そして、その感情を正直に表明することで、コミュニケーションはうまくいきます。自分の感情をメインにして伝えることで、相手を不快にさせることがなくなります。困っている気持ち、手伝ってもらえるとうれしい気持ち、そうした「自分の感情」を伝えるのだということを意識しながら、ふだんから「うまく頼む」トレーニングをしてみましょう。

著者プロフィール
松橋良紀(まつはし よしのり)さん:
コミュニケーション心理トレーナー。著書はこれまでに28冊、累計40万部。20代で営業マンを経験するが、強度の人見知りで人間関係が大の苦手なため、まったく売れず……。ところが30歳のとき、カウンセラー養成学校で心理学を学んだことで人生が激変。心理学を学んでからほんの1か月で、全国450人中1位に躍り出る。支店長となり社内研修講師として全営業所の全社員の営業研修を担当すると、1年で会社の売り上げが140%アップ。2007年にコミュニケーションが苦手な人、困っている営業パーソンのための協会を設立。『話し方で「成功する人」と「失敗する人」の習慣』(明日香出版社)、『「売れる営業」がやっていること 「売れない営業」がやらかしていること』(大和書房)、『何を話せばいいのかわからない人のための雑談のルール』(中経の文庫)など著書多数。

『仕事ができる人のうまい「頼み方」』
著者:松橋良紀 青春出版社 1540円(税込)

「頼めない」理由を心理学の視点で解き明かしながら、具体的なスキルを用いた「うまい頼み方」を紹介します。他人に頼ることの重要性を認識しながらも、なかなか行動に移せなくて悶々としている人にとってはうってつけの1冊。本書で紹介しているスキルは、仕事以外の場面でもきっと役立つでしょう。



構成/さくま健太