——劇中の秘書たちも社会の中でさまざまな理不尽に直面して挫折を味わいながらも、泣き寝入りをせずに戦うことを選んできました。室井さんの場合は、これまでどんな戦い方で困難に立ち向かってきましたか?

室井:私は長いことエッセイを書いていて、今でも女性週刊誌と新聞で連載を持っているのですが、要するに身の回りで起きたことを定期的に吐き出す場所があるんです。もちろん、腹いせのつもりで書いているわけじゃないですよ(笑)。でも、書くという作業を通してイライラした出来事を客観視すると、どんどん冷静になって相手の心情や自分の落ち度に気づけるんです。

例えば昔、大きなトランクを抱えてタクシーを呼び止めたら、運転手さんが荷物を乗せる作業を手伝ってくれなかったんですよ。それについて嫌味を言ったら、「運賃にお客様の荷物を運ぶサービス料は含まれていません」みたいな主張をしてきたの。「クソっ!」って思いますよね(笑)。すごく腹が経って、一部始終をエッセイに記したのですが、原稿用紙を眺めてその出来事ときっちり向き合うと、自分の生意気な態度を省みることもできて。サービス業に関わる方々の気持ちに思いを馳せることができるし、自分なりに少し視野が広がった感覚になれるんです。文章を書き始めて30年以上経ちましたが、書くという習慣に救われている部分が大きいですね。


——頭の中で考えるだけでなく、書くことで自分の思考を“見える化”することが大事なのでしょうか?

室井:悩んでいるときって、頭の中で必死に考えても、同じことを何回も考えてしまって堂々巡りになりがちです。年齢に関わらず、グチっぽい人って会う度に毎回同じようなことに腹を立てていたりするじゃないですか。できれば、そうなりたくはないので(笑)。私もどうしようもなく悩んだときは、エッセイとは別に頭の中をノートに書き出していました。こんな出来事があって、自分はこんな感情になって、こんな解決法があると思う……と、自分なりに筋道を立てて整理するんです。そうやって自分の考えがある程度まとまっていると、友だちに相談するときにも生産的な会話になりやすいですよね。一方的にグチを聞かせるだけでは友だちが離れてしまうかもしれないし、自分で自分の気持ちを整理する何らかの手段を持つことは大事なのではないかと思います。

 

——今は誰もが気軽にSNSで自分の考えを発信できる時代ですが、声を挙げると心ないバッシングを受けるリスクもあります。室井さんは1991年に初のエッセイ集『むかつくぜ!』を出した頃から社会に対する不満を笑い話に変える達人でしたが、文章を書くときに気をつけていることはありますか?

室井:エッセイにおいては、私の悪口や不満をストレートに綴るようなフラストレーションのはけ口になってはいけないと思っています。私の独りよがりにならないように公平な視点で、なおかつ、せっかく読んでくれた人が笑顔になってくれるような表現を心がけていれば、お叱りを受けることもないのではないかと。実際に「共感しました!」みたいなお便りをいただくこともあって、それによって励まされたり生きるパワーをもらえたりします。もしSNSを使える器用さがあったら、もっと仲間が増えていたかもしれないけれど(笑)。


室井滋
富山県出身。早稲田大学在学中にシネマ研究会に所属し、自主映画で活躍。「自主映画の女王」と呼ばれる。1981年、村上春樹原作の映画『風の歌を聴け』で劇場映画デビュー。『居酒屋ゆうれい』『のど自慢』などで多くの映画賞を受賞。近年は映画『大コメ騒動』『地獄の花園』になどに出演。1991年にエッセイ集『むかつくぜ!』、2011年には絵本『しげちゃん』を上梓。新刊絵本『タオルちゃん』『しげちゃんのはつこい』『会いたくて会いたくて』、エッセイ『ヤットコスットコ女旅』他著書多数。声優・ナレーターとしても活動し、多彩な才能で人気を得ている。

 

<映画紹介>
『七人の秘書 THE MOVIE』

 

弱者の救済を請け負う秘書たちの暗躍を描いて話題を呼んだテレビドラマ「七人の秘書」を映画化。今回のターゲットは「アルプス雷鳥リゾート」を経営して信州一帯を牛耳る「九十九ファミリー」。地元の名家として知られる九十九ファミリーだが、裏では私腹を肥やすために手段を問わない極悪一家だった。秘書たちは巧みな潜入スキルで一家に接近を図るが……。主人公・望月千代役の木村文乃らテレビ版でおなじみのキャストに加え、玉木宏、濱田岳、吉瀬美智子、笑福亭鶴瓶がゲスト出演。2022年10月7日劇場公開スタート。

公開日:2022年10月7日(金)
監督:田村直己
脚本:中園ミホ
音楽:沢田 完
出演:木村文乃、広瀬アリス、菜々緒、シム・ウンギョン、大島優子、岸部一徳、室井滋、江口洋介、玉木宏、濱田岳、吉瀬美智子、笑福亭鶴瓶
配給:東宝

©2022「七人の秘書 THE MOVIE」製作委員会


撮影/萩原麻李
取材・文/浅原聡
構成/坂口彩