K-POPグループが英語以外で母国語ではない言語で歌っているのは日本語だけ


小島:今まで韓国のグループは、海外展開の際にまず日本のマーケットで日本語の歌を歌って足場を固めていく事例が多かったと思います。BTSおよび他のグループのグローバルな活躍によって、今後は日本のマーケットは数多あるアジアのマーケットの一つという位置付けに変わっていくようにも思いますが、キムさんはどうお考えですか?

キム:私はそうは思いません。日本は今もK-POPにとって最も大きな市場のひとつです。韓流の初期からK-POPがターゲットとしていたのは、中国と日本です。でも、中国はご存じの通り政治的な理由もあり、今でもK-POPが地位を築くのがなかなか難しい。その影響からアメリカのほうに軸足を移していったとも分析できます。そして、幸運にもアメリカで成功しました。アメリカは人口も多いし、ラテンアメリカの市場とも結びついているので、現在はそちらに力を入れていることも確かです。

NBAジャパンゲームズ2022の観戦のために来日し、日本のファンを喜ばせたSUGA。写真:ロイター/アフロ

でも、今もK-POPにとって最も収入を上げることができて、長いスパンで深く交流ができる市場は日本です。日本は人口も多いし、K-POPに対する認識も以前より深まっています。過去には韓国の文化に関心をもたなかったり、反感を感じたりする人もいましたが、今はファン層も広がりました。今後も韓国にとって日本は重要な市場になっていくのでないのかと思います。

 

ちょっと話が脱線します。私は44歳なんですが、自分が10代のころ学校の教室には2つのタイプの音楽好きがいました。1つはアメリカの音楽が好きなグループ、もう1つは日本の音楽が好きなグループです。アメリカの音楽が好きなグループは当時流行っていたニューキッズ・オン・ザ・ブロック、ロックとかヘビメタなども聞いていました。当時韓国では日本の大衆文化を楽しむことが規制されていたので、日本の音楽が好きなグループはこっそり聞いていました。アイドルが好きな人であれば光GENJIやWink、少年隊、少女隊など。私はバラードが好きだったので安全地帯とかZARD、尾崎豊とかを聞いていました。日本の音楽は欧米のようであり韓国のようでもある、真似できそうな親近感がありました。

欧米の音楽だけでなく、日本の音楽はさまざまなアーティストに影響を与えてきました。ジャニーズのような日本のアイドルばかりでなく、X JAPAN、LUNASEA、ラルク・アン・シエルなどのビジュアルロックのヘアメイクも’90年代から’00年代にかけてK-POPグループの見た目やサウンドの流れを作りました。そんな音楽で育った人たちが今K-POPを支持する、あるいはK-POPを作る世代になっているのです。


話を戻します。K-POPグループが英語以外で母国語ではない言語で歌っているのは日本語だけです。BTSは英語で曲をリリースしたりもしていますが、日本デビューを目指すK-POPグループのほとんどが日本語バージョンの楽曲を出していますよね。それを見れば、今でも日本市場がいかに大切なのかわかると思います。例えばNCT127は東京ドームでライブをしたときに、韓国では歌わない曲を日本のファンの要望を受けて歌ったことがあります。それを見た韓国のファンが嫉妬したくらいの出来事でした。それほど、K-POPは日本の声に敏感に反応しているのです。

小島:今の日本の20代は音楽だけでなくファッションやメイクも含めて韓国のカルチャーを身近で洗練されたものとして捉えています。今は日本の芸能事務所がK-POPアイドル風のグループを売り出していますし、多くのシーンで韓国から良い影響を受けているように見えます。今後、K-POPとJ-POPは相互にどのような影響を与えると思いますか?

キム:日本と韓国は音楽的に絶えず交流する関係なのだと思います。私が子供のころは、J-POPが影響を与えていましたが、いまはK-POPが日本に影響を与えるようになったわけですよね。メイクに関しても、かつて韓国の若者は『non-no』のような雑誌を読んで日本のトレンドを取り入れていました。決してどっちが優れているということではなく、影響を受け合っていくのだと思います。次世代は、また韓国の人が日本のスタイルを真似するかもしれません。これまで日本のアイドルは親しみやすくて平凡であることを魅力として人気を得ていましたが、K-POPによってグローバルスタンダードに近い音楽をつくる必要を感じ、最近デビューするJ-POPグループはイメージも洗練されてテクニックも進歩していますよね。それはK-POPが与えた良い影響ではないでしょうか。

こうした形で、お互いの音楽が影響を与えることが今後も続くはずです。今、欧米ではアイドル音楽と言えばK-POPが代表的なスタイルだと考えていますが、一方でJ-POPにもK-POPとは異なるサウンドや美学のスタイルが存在する。そういった点を大切にして音楽を作っていけば、J-POPも再び世界で注目される機会が来るのではないかと思います。
 

【画像まとめ】6枚でわかるJ-POPで育った40代がBTSの曲を懐かしく感じる理由
▼右にスワイプしてください▼

『BTSを読む なぜ世界を夢中にさせるか』
キム・ヨンデ 著 桑畑優香 翻訳
2020年5月27日発売
300頁
発売・発行:柏書房

米韓で活躍する韓国人音楽評論家が、2018年までにBTSが発表した全楽曲を徹底レビュー。さらに全世界を巻き込んだ「BTS現象」を、韓国音楽界の重鎮や作曲家や文学評論家、ジャーナリスト、グラミー賞投票者など各界の専門家のインタビューを交えながら掘り下げる。


取材/小島慶子
翻訳/桑畑優香
対談・文/浅原聡
 

 


前回記事「BTSメンバーは今後それぞれどう活動していくか?才能と個性から音楽評論家キム・ヨンデさんと紐解く!」はこちら>>