誰よりも“痛み”知る女子高生の成長譚『女王のトランク』目指すのはSMの世界の女王！？

相手から求められていないにも関わらず、殴る、蹴るなどの“痛み”を与える行為はただの暴力。絶対にあってはならないことです。ですが、その“痛み”が愛情表現になる世界があります。それがSMの世界。

電子書籍で人気に火がつき、10月24日に紙書籍単行本1〜3巻が発売される『女王のトランク』。本作の舞台はまさにSMの世界ですが、そこに足を踏み入れたのは誰よりも“痛み”を知る女子高生でした。

将来は女王様になりたいと願った少女の悲惨な現実

将来はお姫様ではなく、女王様になって母を守りたい……。父から暴力を振るわれている母を見て幼心にそんな夢を抱く少女・ハレカ。けれど、彼女の願いも虚しく母はハレカと弟を残して失踪。その後、高校生へと成長したハレカですが、彼女の日常は父親からの暴力に耐え続けるという悲惨なものでした。

自由に遊ぶことも、華やかな格好をすることさえ許されない。そんな極限状態で彼女がある日街中で見かけたのは、圧倒的なオーラを放つ一人の美女。

その美貌に心惹かれ、一時間でも良いから彼女になりたいと切望するハレカは、なんと彼女が持っていたトランクを盗んでしまいます。

トランクが導く、甘美で危険な夜

トランクの中身は、漆黒のドレスとハイヒール。その美しさに魅了されたハレカは、今までの惨めな自分を払拭するかのようにドレスとハイヒールを試着して街を歩きます。

身に着ける服や靴によって急変する周囲からの視線。男女関係なく、美しいものには人を圧倒させる力があるのだとハレカは気づきます。ですが、そんな楽しい時間も束の間、持ち主である美女・美夜（ミヤ）に捕まり、トランクを盗んだお詫びに彼女の用事に付き合うことに。

そして、美夜の気になる用事とは、なんと各界の要人が集まる秘密のSMクラブ。彼女はそこでトップに君臨するSMの女王様だったのです。

望まれる痛み、暴力が愛情表現になる世界

望まない暴力に苦しむ自分。一方で、自ら痛みを望み、その痛みが愛情表現になる世界。何もかも真逆な世界に戸惑うハレカでしたが、美夜のプレイを見ているうちに不思議な高揚感に包まれていきます。

そして、通称・秘密クラブと呼ばれるこの場所で美夜のようにトップの女王になれば、このクラブを取り仕切っているスポンサーから「一つだけ望みを叶える権利」が与えられると知ったハレカ。こうして彼女は、弟と一緒に父親の元から逃れるべくトップの女王を目指してSMの世界に身を投じていきます。

父親からの暴力、SMのプレイ。主人公のハレカには常に “痛み”が付き纏います。ですが、彼女は決して父親から受けた痛みをSMのプレイで発散するなど、痛みを復讐に使うことはありません。

望まない痛みを知っているからこそ、相手が望む最高の痛み（愛情）を与えることができる……ハレカはそんな自分のトラウマを愛に昇華し、一人の人間として強く成長していくのです。

まるでダークファンタジーの世界でも見ているかのような、妖艶なSM衣装に幻想的なプレイのシーン。そして、SMの女王として経験を積んでいくなかで、私生活でも凛と強くなっていくハレカにぜひ注目してください。
 

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＜作者プロフィール＞
北森サイ
2014年後期、第66回講談社ちば賞にて『泣き虫とうさん』で大賞を受賞しデビューを果たす。講談社「月刊モーニング・ツー」にて『ホカヒビト』（全2巻）を連載。現在は『女王のトランク』を連載中。
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