ホスピス住宅は病院と自宅の中間のような施設


日本では、1981年に国内初のホスピスが開設され、ホスピス・緩和ケア病棟は1990年に健康保険の適用を受けるようになりました。緩和ケア病棟は、2021年度の時点で全国に459施設9464床あります(日本ホスピス緩和ケア協会発表)。ですが、今回の相談者・沙織さん親子が医師に言われたように、緩和ケア病棟への入院は1ヶ月程度しか認められません。その理由は、患者が長く入院すればするほど、病院が得る診療報酬が減ってしまうという制度が原因です。

そこで、緩和ケア病棟にも頼れず、在宅介護も難しい方に知っていただきたいのが、今回取り上げるホスピス住宅です。ホスピス住宅とは、自宅の1室のような空間の中で、病院さながらの医療行為、介護施設と同等の見守りを受けられる、病院と自宅の中間のような施設のこと。「ホスピス住宅」という名称の介護施設があるわけではなく、主にホスピスプランのある有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などが提供しています。

ホスピス住宅では、医療用麻薬や鎮痛剤などで痛みを和らげる看護師による緩和ケア、一般的な有料老人ホームでは行われない経鼻経管栄養などの医療ケアが提供されます。看取り間近な人に対するケアが充実しており、介護職員による身体介助などで清潔を保ちながら、穏やかに暮らすことを目指しています。

 

ホスピス住宅と介護付き有料老人ホームの違い


ホスピス住宅と一般的な有料老人ホームの最大の違いは、医療サポートの質と量です。

介護付き有料老人ホームに入居するのは、介護が必要な方、将来的に介護が必要になるであろう方です。基本的には、食事や入浴・トイレなどの介助、掃除や洗濯などの日常生活援助がメインで行われますが、近年では胃ろうや痰吸引などの医療ケアに対応した施設も増えてきました。しかし看護師が24時間常駐していないといった理由から、沙織さんのお父様のように緩和ケアを必要とする方の入居先は限られています。

それに対して、ホスピス住宅では主に緩和ケアが提供されます。施設内には看護師が24時間常駐しており、インスリン注射や在宅人工呼吸器、IVH(中心静脈栄養)などの医療ケアを受けることができます。このように、有料老人ホームに比べてより医療面で安心感を得られるのです。
 

ホスピス住宅の費用はどのくらい?


ホスピス住宅では、月々の家賃、共営費、管理費、食費のほか、おむつ代などの日常生活費がかかります。これは地域や経営母体によって異なり、基準は一般的な有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅と同じです。これに加えて、介護保険と医療保険の自己負担分がかかります。

東京近郊のホスピスプランのある有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、管理費を含めた居住費が1ヵ月15〜30万円ほど、医療と介護費用が5〜30万円ほどです。地域や部屋のタイプによって差はありますが、ホスピスはほかの介護施設に比べて入居期間が短くなるため、入居一時金を請求しない施設が多いのが特徴です。
 

ホスピス住宅の入居対象者は?


ホスピス住宅に入居する条件として、要介護認定は必要ありません。ですが介護保険サービスを利用する場合は必要になるため、ほとんどの方が介護保険と医療保険を併用することになります。介護保険には自己負担上限額がありますし、医療保険にも高額療養費制度がありますので、どちらも積極的に活用してください。

ホスピス住宅の医療的なケアは、訪問看護ステーションから提供されます。訪問看護を利用した場合、何度も利用するとすぐに介護保険の利用限度額に届いてしまいます。訪問看護の保険適用は本来週3日まででしたが、厚生労働大臣が定める以下の疾病等に該当すれば、週4日以上の訪問看護も医療保険で受けることができます。

がんを患った父が最期を迎える場にしたい、病院と自宅の中間施設「ホスピス住宅」とは_img1
 

先ほども述べたように、ホスピス住宅への入居に要介護認定はいりませんが、主にこれらの疾患を持った方たちを受け入れる施設だと思ってください。

ホスピス住宅は、個人でワンルームマンションを契約しているようなもの。基本的に面会に制限はないので、コロナ禍でも自由に出入りしやすいところは昨今の状況下に合った対応かもしれません。自宅では家族が対応しきれなかったり、病院にも長く置いてもらえないような症状の方は、一度ホスピス住宅を検討してみてはいかがでしょうか。
 

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写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子

 

 

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