「結婚は二番目に好きな人とするのがいい」なんて言葉がありますが、一番好きな人に心残りがあるままで、他の人と結婚したらどうなるのか。そして、一番好きな相手というのが実は同性だったなら。そんな新しい形の三角関係を描いた『雨降り晴れて花ひかる』は11月15日に1巻が発売されました。

光(ひかる)は、徳島のうどん屋でバイトをしながら、夫の晴天(はるたか)と犬と暮らしています。写真を撮るのが趣味で、いつもカメラを持ち歩いています。

 

優しい夫からは愛され、平凡ながらも幸せな日々。きっとこんな生活が続くのだろう、と感じていた光のバイト先にある日同級生が訪れ、「あの人」が戻ってくるのだと伝えます。途端に平常心でいられなくなる光。あの人=野々瀬さんちの子が帰ってくるというウワサは町中ですぐに広まりました。

 

「あの人」が帰ってくるという日を待ち焦がれて、当日の朝から、駅のホームで待つ光。けれど暗くなってもその人は来ません。家に帰ろうとすると、夫が迎えに来ていました。「心配するに決まっとるやろ」彼女をぎゅっと抱きしめる夫。

 

夫は光の様子に何かを感じ取っているようでした。
けれど、次の日もホームに行き、待ち続ける光。待ちながら「あの人」との出会い、心惹かれてゆくまでのことを思い出していました。

 


私の人生にあの人がいなかった日はない

待ち続けた末、ついに「あの人」が電車から降りてきて、再会する⋯⋯!

 

その第一声は、意外な一言でした。

何年もこの日を待っていたんだ

光が心を囚われていたのは、芸能人みたいな容姿の美しい女性・花でした。光より5歳歳上で、性格はかなりミステリアス、次に何をしでかすか予想がつかない魔性の女のよう。再会後に光が結婚していると知ると、こう言います。

 

また、花が帰ってきてから妻の態度がおかしいことが気がかりな夫・晴天にも接近し、思わせぶりなことを言うのです。

 

本作は、主人公・光の「一番好きな人」というのが女性であることが、さらりと自然に表現されているのがいいんです。花が帰ってくることを伝える光の同級生も、普通に「まだ野々瀬さんのことって⋯⋯」と聞いてくる。彼女や彼女の周りにとっては当たり前のことだから、そこを過剰に表現していないんです。かといって必要以上に隠したりもしないのもいい。光が、花を好きになった瞬間を「あれが『私』のはじまり」と振り返るのですが、ここではっきりと女性を好きになるのが光のアイデンティティだと描いているんです。

また、読んでいると三人ともなんだか色っぽい。光が花に恋焦がれる感情は、四国の海のキラキラした水面のように叙情的に描かれます。対して、夫・晴天の感情は、妻を見つめていたりバックハグをしたりなど、熱く色気を感じさせるもの。花はいつも覚めたような目で何を考えているのか読み取れない⋯⋯感情表現がしっかり三種三様で描きわけられているのがすごいんです。

一巻時点でまだはっきり明かされていないのは、かつての光と花の関係性。何かいろいろあったのだろうと想像できるのですがどれくらいの深さだったのか。そして、花の真意は。美しい感情描写とともにこの三角関係がどうなってゆくのか、二巻以降の展開が気になる作品です!

 

【漫画】『雨降り晴れて花ひかる』第1話を試し読み!
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『雨降り晴れて花ひかる』
大沢 やよい (著)

四国の片田舎、うどん屋でバイトをしながら旦那と犬と暮らす光はだいたい同じ毎日を繰り返し、ほぼほぼ幸せで平穏。だけど胸のうちに小さなトゲをひそませている。ある日、親友から「あの人」が帰ってくると聞いて胸のトゲが騒ぎ出す⋯⋯。思い焦がれ、諦め、飲み込み、そして選んだ覚悟。そのすべてをゼロにする「あの人」。誰を愛するのか誰に愛されるのか。新感覚ラブストーリー!

大沢やよい
9月生まれ。華やかで繊細な筆致で女性特有の感情を描く。KADOKAWAビーズログCHEEKにて男女3人の複雑な人間関係をテーマにした『雨降り晴れて花ひかる』を連載中。
Twitterアカウント:@osawa841



構成/大槻由実子
編集/坂口彩