谷村志穂さん(以下、谷村):還暦って、自分でもびっくりですよ! 娘からは「赤いものは他の人からもらうと思うから」と白いバラをプレゼントされました。でも、周囲の人からも、なぜか黄色い花とか、赤以外のものばかりくれたので、赤いものが手元にないんです(笑)。

 

―― そう笑うのは、60歳になったばかりの谷村さん。でも、年齢を聞いて驚くほどの若々しさで、大人の余裕や色気を漂わせつつも、少女のようにあどけない笑顔を見せ、周囲の人たちを惹き付ける魅力の持ち主です。

谷村:55歳くらいからついた脂肪はなかなか落ちないし、白髪が増えてきて……。全部はできないからネイルは諦めようとか、優先順位をつけるようになりました。

 

――27歳の時に執筆したノンフィクション『結婚しないかもしれない症候群』が多くの女性の支持を集め、翌年に小説家としてデビューした谷村さんにとって、30代はとてもしんどかったと振り返ります。

谷村:あまりにも忙しすぎて、心身のバランスを崩していてすごく辛かったんです。自分で抱えられる仕事量がわからず、常にプレッシャーも感じていて、女性としてもどうしよう? と悩んでいる時期でもありました。でも、37歳で結婚し、38歳で出産したら一転! 昼夜逆転だったのが早起きの生活になり、子育て生活に自分をあわせるのが必死でした。いろんな失敗もやらかしましたし……。当時の自分に声をかけられるとしたら、「辛い時期は絶対に抜けられるし、そのあと楽しくなれるよ」って言ってあげたいですね。

――作家として第一線で活躍し、それぞれが違っていて当たり前という環境にいた谷村さんが、○○ちゃんのママになった途端、周囲から浮いたり、感覚のズレから失敗したりすることも少なくなかったといいます。

谷村:実はお母さんたちだってみんな違うのが当たり前なんですけどね。でも、そんな失敗を繰り返してきたので、小説を書く時は現実の自分から思い切って離れないと書けない時期がありました。毎日お弁当を作っている自分と、書いている自分は全くの別物で、すごく長い時間をかけて1本の小説を書いていたんです。でも、娘が成長して私の手を離れていくようになったら、無理に切り離さなくても本来の自分に戻り、自由に書けるようになってきました。