リアルさを意識して、楽しく話し合いながら演じました


――池波先生の名言だと思うのですが「人間というものは悪いことをしながら善いこともし、善いこともしながら悪いこともする」という哲学についてどう思われますか。

豊川:なかなか今のご時世、悪いことというのはできないですよね。現代のように法が法として機能してなかった時代の話ですから、それでも人々の恨みを誰かが晴らさなければならない。誰も助けてくれないから、身銭を切って自腹で、自分の恨みを晴らそうとする。場合によっては、自分の命と引き換えに恨みを晴らそうとする。あるいは自分が愛していた人たちの恨みを晴らすという。それは江戸時代でなくても現代にも通じる考えといいますか、通じるものがあるような気がします。

ⓒ「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

「善いことをしながら悪いこともする」のは、決していいことではないのだけれど、それは確実に存在するし、もしかしたら、どこかみんなが認めざるを得ない感情や行為であるような気がします。

 

――愛之助さんは先ほど、「梅安と彦次郎のふたりには何か通じるものがある」とおっしゃっていましたが、もう少し具体的にお話しいただけますか。

愛之助:ふたりの過去の“闇”といいますか、お互い育った環境の闇を抱えながら生きています。そして“復讐”のような、必ず仇を見つけてやると誓って仕掛人になったわけです。「善いことをしながら悪いことをし、悪いことをしながら善いことをするもんだ」という台詞がありますが、やはり共通するのは、梅安さんだったり彦次郎だったりの瞳の奥にある“闇”ではないでしょうか。

――梅安、彦次郎の役作りについて引き続きお伺いします。今までの映像化された梅安・彦次郎など過去の作品からどういうところを参考にされたかを教えてください。

豊川:今回、出演するにあたり先輩方が演じられた梅安を改めて拝見しました。緒形拳さんが梅安を演じられた「必殺仕掛人」は、子どもの頃にずっと観ていましたが、緒形さん以外にも多くの方が梅安を演じられていて、歴代の梅安を見返していく作業はとても楽しかったです。やり方はたくさんあるし、切り口もたくさんある。でも梅安という軸自体はブレない。俳優としては作り甲斐があると申しますか、じゃあ今回はこのキャラクターのどこを選択して、どこをデフォルメして演じるのかを考えるのはとても楽しかったし、そういう話を監督や共演者の方とするのも楽しかったですね。

愛之助:今回、河毛監督に彦次郎像について伺ったときに、「あまりトーンも明るくならないようにしてほしい」とおっしゃられました。私はどちらかというと明るいほうがいいのかと思っていましたが、あまり明るくひょうきんではない雰囲気でとのことで、脚本と監督の演出に沿って、作り込んでいきました。

ⓒ「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

そして、武器というのが……(笑)。彦次郎は楊枝職人ですからね。当時はちゃんと武器のひとつに“吹き矢”というのがありましたから。楊枝を削る作業も、矢に毒を塗る作業も練習しましたし、吹き矢を吹く練習もしっかりしました。遠距離用と近距離用で吹き矢の種類が違うんですよ。遠距離用の威力にはびっくりしました。矢である楊枝もちゃんと刺さるんです。でも接近戦では不利。刺さってすぐ絶命させる毒なんてありませんからね。監督が「毒がまわるまでは“7秒”」とおっしゃるので、「その7秒を意識して芝居します」と、楽しく話し合いながら演じました。