捨て身すぎる「踏みにじられた女」の行動


思いもよらない指示に、紗季はますます声を鋭く、小さくした。

「21階に? 亀山さんのいらっしゃる繊維部のフロアですが……やはり先ほどご報告した女性が何か行動を?」

「ああ……21階の執務室に、彼女が突入した。爆竹のようなものと、レコーダーを持って、ちょっとまずいプライベートな録音を大音量で再生してだな……。取り押さえようとしたら抵抗して、バッグから消火器を出してぶちまけたんだ。なに、すでに制圧して警察が連行したところだ。ただ、消火剤とスプリンクラーでデスクやPCが大量に壊滅した。重要な情報だらけだから、清掃業者を入れずにまずは社員総出で資料を保護している。力を貸してくれ」

紗季は、ああ、と声にならないため息をつく。やはり亀山氏に恨みを持つ女性の行動だったのだ。あまりにも悲しい、予想通りの展開。

言葉少なに内線を切ると、紗季は小声で後輩の2人に状況を共有した。

 

「うわ……予想通りの展開……。こういうこと、数年に1度は必ずありますよね。今回は刃傷沙汰にならなくてよかった」

玲子がげんなりした表情を浮かべると、美加が飛び上がる。

「刃傷沙汰!? か、会社でそんなことがあるんですか?」