肩の力を抜いた、それでいてささやかな幸せを感じられるモノやコト、そして様々な人生を歩む人を通じて、暮らしのヒントを授けてくれる雑誌「暮らしのおへそ」。その企画・編集、執筆までを手掛ける一田憲子さんが、60歳を目前に上梓したエッセイが『人生後半、上手にくだる』です。

がむしゃらに仕事をし、夢中で山を登り続けた20〜30代。40代になると自分が来た道を振り返り始め、50代後半になった今は「山をいかに下りるか」を模索されているそう。「老いたって幸せになれる。面白がって下ることだって、きっとできる」――そんなメッセージから始まる本書より、歳を重ねてわかった「自分の育み方」を一部抜粋してご紹介します。

 

一田憲子(いちだ・のりこ)さん
1964年生まれ。編集者・ライター。OLを経て編集プロダクションに転職後フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手掛ける。企画から編集、執筆までを手掛ける「暮らしのおへそ」「大人になったら、着たい服」(共に主婦と生活社)を立ち上げ、取材やイベントなどで、全国を飛び回る日々。『もっと早く言ってよ。50代の私から20代の私に伝えたいこと』(扶桑社)ほか著書多数。暮らしのヒント、生きる知恵を綴るサイト「外の音、内の香」を主催。「暮らしのおへそラジオ」を隔週日曜日配信中。

盛者必衰に思う、「ああいう風にはなりたくないなあ」からの変化


キラキラと輝いていた女優さんが、いつか映画のスクリーンやテレビの画面から姿を消す。雑誌の特集でよく見かけていた料理家さんや、スタイリストさんが、ふと気づくといなくなる。よく仕事を一緒にしていたライターやカメラマンの先輩が、知らない間に実家に戻ったり、廃業したりしている……。

そんな事実を知るたびに、小学生の頃に習った『平家物語』のあの一説がゴ〜ンという鐘の音と共に浮かんできます。

 

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす」。

沙羅双樹とは、シャラの木のことで、夏椿とも呼ばれるそう。固い蕾が花開き、美しい姿を見せてくれるのはほんの一瞬で、必ず枯れ萎れていきます。世の中には永遠というものはない。どんなに活躍しても、時が経てば必ず衰え、消えていく。そんな世の中の理が身に染みるお年頃になってきました。

一田さんは人生後半にさしかかり、朝5時半起きを習慣化。その代わり、夜に頑張ることをやめたといいます。(『人生後半、上手にくだる』P108より)

若い頃の私は「ああ、寂しいなあ。ああいう風にはなりたくないなあ」と思ったもの。そして、「どうしたら枯れないでいられるのかな?」「歳をとってもずっとキラキラしていられるには、どうしたらいいのかな?」とその方法を知りたくてたまりませんでした。

でも、60歳を目前に控えた今、やっと想像ができるようになってきました。スクリーンから消えたあの人が、家族と一緒に穏やかな日々を過ごしているかもしれないなあ。雑誌から去ったこの人が、やっとゆっくりと1日を静かに味わっているのかもしれないなあと……。