副業だからこそ「できること」に縛られる必要はなし
ところが、WEBデザインのコースが始まる前日、故郷にお住まいだった三橋さんのお父様が突然亡くなってしまいます。
「バタバタと葬儀を済ませ、現実に戻ると心が抜け殻のようで、とても新しいことをスタートする気分にはなれませんでした。もともと自覚していた自分のパソコンスキルに加えて、明らかにクラスで遅れを取ってしまったことで、とてもついていける気がしませんでした」
スクールを辞めようと思いつめ、相談に行ったという三橋さん。すると同時期に入学した別のクラスの授業が行われていました。のぞいてみると、先生から厳しいアドバイスを受けている方や、子どもを連れて必死に受講している方もいたそうです。
「皆それぞれ努力や苦労をしている様子を目の当たりにし、自分は甘えていると感じました。辞める相談に行ったはずが、この瞬間に本当の意味で『勉強しよう』と決心が固まります。そして背中を押してくれた出来事がもうひとつ。
父の葬儀が終わった後に父宛の小包が届いたんです。建築士だった父の仕事と少し違う内容のテキストでした。どうやらこれから勉強するつもりだったようです。父は最期までもっと学ぼうとしていた。ここで私が立ち止まってしまうのは違うなと思えたんです」
そこからWEBデザインを学ぶことに集中した三橋さん。最初のクラスでは「コマンド+C」って? ショートカットキーとは? というところから分からなかったそう。
「最初は『どうしよう、私、レベルが低すぎる……』と落ち込みました。でもせっかく飛び込んだのだから、恥ずかしいという気持ちは全部捨てよう! と開き直って授業後に質問しまくることに。私が通っていたスクールの主婦・ママクラスにはベビーシッターを利用できるサービスがあり、月1回ほどの通学はすべて子連れでも大丈夫でした」
基礎を学んだあと、まずは名刺やバナーを作る課題からスタート。次に簡単なWEBページ。少しずつステップアップするなかで、コツコツやる面白さに開眼したという三橋さん。家族の慧眼は正しかったのです。
「ゼロから構築するところは父の愛した建築とも共通している。これが仕事になったら、私はやりがいを感じられるかもしれない」、そう思ったと言います。
もちろん、小さな子を育てながらの勉強は生半可なものではありませんでした。誰にでも勧めるようなことではない、と三橋さんは語ります。新しいことを学ぶなら、それぞれのタイミングや条件がそろったときに学ぶのがベストでしょう。
「ただ副業を探すとき、必ずしも『できること』『これまでのキャリアを活かすこと』にこだわる必要はないというヒントになれば」と三橋さんは語ります。
ところが無事にスクールを卒業し、CA復職目前で新型コロナが世界的に流行します。航空会社は打撃を受け、多くの同僚が休職となり、三橋さんの育児休業も無期限延長になりました。
「本当なら仕事がなくなり大ピンチなのですが、私はこれをチャンスと捉えることに。学んだことを活かして、社会に貢献してみたい。自分がフリーランスとしてどこまでできるか、ゼロからチャレンジしてみようと思いました」
一念発起、WEBデザインの仕事を探し始める三橋さん。まずは通っていた学校から、小さな案件を紹介してもらえたといいます。
ところが手探りでフリーランスとして働くことは、自由な響きとは裏腹に孤独との戦いでした。駆け出しだという思いから打診があった仕事は決して断らず、全身全霊で取り組みます。感染症の流行による外出自粛もあり、家にこもって家族以外と会わず、限界までPCに向かう日々でした。
もともと接客が大好きでCAになった三橋さんにとって、それはあまりにも慣れない日々。次第に心身に不調をきたします。
「母親になったらもうCAを続けてはいけないと思いこみ、それを前提に新しい仕事を探したのがスタート地点。ところが、夢にみた家庭と両立しながら打ち込める仕事が見つかりそうになったとき、さらに正直な気持ちが湧き上がってきたのです。CAの仕事が、人と関わる仕事が、大好きだという想いでした。でもWEBの世界で自分の居場所を確立しなくては……と部屋に籠る日々。今思えば、この頃はコロナ禍という特殊な状況もあり、精神的に参っていたように思います」
WEBデザイナーの卵として勉強しながらも、再び岐路に立った三橋さん。後編では、彼女が選んだ意外な「二足のわらじ生活」を伺います。
WEBデザイナー
デジタルハリウッド STUDIO千葉トレーナー
三橋 由美さん Yumi Mitsuhashi岩手県出身。大学卒業後、ヨーロッパの航空会社にCAとして入社。現在も北欧系航空会社でCAとして乗務。コロナ禍で二人目の育児休業が延長されるなか、デジタルハリウッドSTUDIOの「Webデザイナー専攻 主婦・ママ専用クラス」で学び、Webデザイナーのスキルを習得。現在はCAとWebデザイナー、そしてデジタルハリウッドSTUDIOのトレーナーとしてパラキャリアを築いている。
▶Instagram:https://www.instagram.com/aurinko103/
▶HP:https://aurinko-web.jp/
「子どもが生まれたらCAを引退しなくてはと思いこんでいたけれど……」2児の母がゼロからプロへ!
▼右にスワイプしてください▼
構成/山本理沙
前回記事「「ワーママはやりがいか、バランスか?」国際線アラサーCAの副業探し、時給1000円のアルバイトを始めた事情」>>
Comment