妻の人生にとって「害」と認定された夫


離婚を切り出したのは妻とはいえ、この雅之さんの対応には驚きました。入院中の3人の子ども達のことはどう考えているのか理解に苦しみます。

「幸い、このときは疎遠になっていた母親とシッターさんを駆使して子どもたちは何とかなりましたし、私も10日間で無事健康に退院できました。本当に焦りましたけど、結果、この出来事はよかったと思っています。別居中とはいえ、家族のピンチに全く手を貸さなかった夫への未練を完全に断つことができ、私の判断は間違っていなかったと確信できたから」

そしてこの後、雅之さんはさらに驚く行動に出ました。離婚にあたり、茜さんに慰謝料と財産分与を請求し始めたのです。その額はかなりのものでした。

「お金を寄越せとしつこく連絡が来るようにもなり、もう100年の恋も冷めた感じでした。財産分与と言っても、私のお金はほとんど会社を回すのに使っているし、普段から家族の最低限の生活費しか使っていないことは彼だってわかっていたはずなのに」

財産分与とは、婚姻中に作り上げた財産は離婚の際には公平に分配すると言う制度。雅之さんは、これまで茜さんが稼いだ財産の半分を請求したそうです。

 

「私の持論ですが、この財産分与の制度はちょっとおかしいと思います。結婚中に専業主婦で子どもがいて、離婚後にシングルマザーになる人にのみ適応されるならわかりますが。どうしてシングルマザーになった私が、五体満足の独り身の成人男性に半分も財産を渡さなければならないのか……」

 

ちなみにこの時、雅之さんはすでに地元大阪に戻り、元の整備工場で働いていたと言います。

「当時会社は赤字でしたし、この点は弁護士を通してそれなりに収めました。でも私としては、むしろ彼に子ども3人分の養育費を払って欲しいところでしたけど、結局1円ももらっていません」

茜さん曰く、この離婚のゴタゴタを経て、長年愛していた雅之さんは彼女の人生にとって「害」だと認定するようになったと言います。

「別居後は少し鬱になりそうなほど孤独を感じたりもしましたが、目が覚めました。人生の『害』となる男に時間を割く暇はありません。仮に、若くて捨身になれるなら、害のある男性に溺れたりするのも楽しいですよね。でも子育てもしなければならず、守るものがたくさんある中で、私はそういう人と関わるのは辞めました」

離婚から半年も経つと、茜さんは心身共に健康を取り戻しました。シングルマザー生活も心から幸せだと胸を張って言えるそうです。

「当初は何より末っ子が毎月のように病気になるのが大変でしたけど、病児保育のシッターさんや病児の託児所など、困ったときにも頼れる環境さえ整えてしまえば、意外と全部1人でできるようになりました」

そんな茜さんの日常生活は、朝7時に起床、朝ごはんなどの支度を済ませ、8時半に登校・登園。日中はオフィスで仕事に集中し、18時に子どもたちをお迎えして帰宅、夕飯やお風呂を済ませて20時頃に寝かしつけを済ませたらまた夜中まで仕事をしているそう。

「何度も言いますが、私は仕事も早いし体力があるので(笑)料理も掃除も15分くらいで済むし、夫の不在は大したことではありませんでした。むしろ今までは私がお父さんみたいな存在でしたから、子どもと日々しっかり向き合う時間が幸せで心が満たされることに気づきました。疲れるどころか、それがまたエネルギーになっています」

心の状態が何より優先だと仰る茜さんですが、その言葉の通り、愛のある健康的な心が彼女を強くし、普通であれば大変と思われるシングルマザーと経営者という生活を両立させているのだと思います。

「でも結婚生活は全体を通して楽しいものだったと思うし、やっぱり愛する人と永遠の愛を誓うのは幸せなことだと思います。元夫との関係も今は悪くなく、定期的に子どもたちにも会っています。私にとって離婚は、人生の第一章に区切りがついた感じ。たとえ夫婦でも人は個々それぞれ成長速度は一緒じゃない。それによって相性や価値観はどうしても変化するし、気持ちが変わることは仕方ないと思います。

また第二章、三章と人生何が起こるかわかりませんけど、きっと私の成長が止まるのはだいぶおばあちゃんになってからだと思うので(笑)、その時出会う人とは、本当の意味で永遠の愛を誓えるかもしれません」

永遠の愛を誓ったことに嘘も後悔もない。けれど、それが変わってしまったこと、違ったこともまた仕方ない。当然と言えば当然の男女関係の変化をシンプルに捉え、悲観せずに前向きに人生を歩む。様々なパートナーの在り方が存在するご時世、人は結婚という価値観に必要以上に囚われなくてもいいのかもしれません。

まだ30代半ば、母としても経営者としてもエネルギー溢れる茜さんに学ばせていただきました。今後も益々のご活躍を応援しています。
 


写真/Shutterstock
取材・文・構成/山本理沙

 

 

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