ウクライナ侵攻の影響で物価高騰が続き、世界では貧困者が増加しているそうです。日本でも今後さらに貧困層が増えることが予想されます。貧困には「絶対的貧困」と「相対的貧困」という二つの指標があるのを知っていましたか。絶対的貧困とは、食べるのにも困るような生活をしており生活保護を受けられるレベルの貧困。一方、相対的貧困とはその国や地域の平均的な生活水準と比べて、大多数よりも貧しい状態のことです。母子家庭で絶対的貧困だった女子高生が、母親が亡くなった後、孤立無援で生きる苦しさを描いた『ブレッチェン~相対的貧困の中で~』は、社会で注目されることが少ない相対的貧困をテーマにした物語です。

母子家庭で育った18歳の楓花は、母親が病気で亡くなり、高校卒業後に生活保護を打ち切られました。父親はどこにいるかわからず、母親が生きていた頃は親切だったケースワーカーさんも住んでいたアパートの大家さんも冷たくなり、アルバイトをしたくても誰も保証人になってくれない。大学受験をしましたが、こんな状態ではもう進学もできなくなりました。

 

「あなたは『健康な18歳』だから、仕事をして自分を養う義務があるの。国に甘えようなんて考えちゃダメよ」楓花はケースワーカーさんに言われます。

彼女は生活保護から抜け出したいと思っていました。けれどアルバイトもできないのならどうしたって抜け出せません。人生に絶望していた時、楓花はとても美味しいパンを作るパン屋の女性・絢子と出逢います。

 

彼女からもらったパンの美味しさに感動した楓花は、保証人がいなくても雇ってもらえないか頼み込み、絢子の元で働くことになります。「私にもおいしいパンが作れるようになるかもしれない」密かにそう思う楓花。対して、絢子の方はこだわりの良質な素材を使いつつも価格をかなり抑えたギリギリの個人経営をしていました。彼女は楓花に、最低賃金で雇うことを伝えます。

 

楓花は、パン屋で働くことでやっと相対的貧困になれました。ですが生活保護を受けるよりも苦しい生活になるという事実を彼女は知りませんでした。

楓花と母親が絶対的貧困だった頃、母親は病気で働けず保証人もいなかったけれど、アパートを借りることができたのは生活保護を受けていたから。「私たちは守られていた」と彼女は思います。

相対的貧困の方が深刻度が低いと見なされますが、実際には最低賃金での収入から国民健康保険料などを差し引かれ、結果的に生活保護の受給額を下回るケースが多いのです。

 

そのため、絶対的貧困の人が「生活保護は甘え」「怠けている」という認識で見られることも。しかし、病気だった母親も楓花も決して怠けていたわけではありません⋯⋯。

楓花のように、絶対的貧困から抜けて相対的貧困になっても、生活するのに最低限の額しか稼げず、生活保護よりも経済的に苦しい状態で暮らす人々。このような貧困に陥る人に対して、"自己責任"と言い、袋小路に追い込むような日本社会の構造に対して問題提起をする本作。これは社会で目立たぬ弱者の物語なのです。

楓花はパン屋「ブレッチェン」で、絢子さんのパン作りを見ながらパンの基本知識を覚えていきます。一度教えられた材料の計量法をすぐに覚え、応用できる楓花に、絢子さんは手ごたえを感じます。彼女が「リーン」な生地のパンについて教える場面は、本作のなかでも象徴的な部分です。リーンな生地とは、小麦粉と塩と水、パン酵母、もしくは少しの副材料だけを加えたものを言います。

 

店名の「ブレッチェン」は、ドイツの朝食用パンで、リーンなパン。リーンには「無駄がなく、活力がある」という意味もあります。それは、本来なら大学進学ができるほど記憶力が良く賢い楓花のようでした。

日本社会が生み出す貧困と、貧困に陥る人々への偏見への問題提起をする本作。最新話ではコロナ流行時の2020年が舞台となり、飲食店の営業短縮で貧困に陥る人たちが増加する様子が描かれます。より、貧困とは自己責任なのか? 生活保護を受けることは甘えなのか? とこちらに問いかけてきます。そして「ブレッチェン」=リーンな生き方をしてきた人間だからこそ、コロナ禍の社会でできることを提示してくれます。

 

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<作品紹介>
『ブレッチェン~相対的貧困の中で~』
くりきあきこ(著)

生活保護を受けながら母親とふたりで暮らしていた楓花は、コンビニでアルバイトをしながら大学進学のための学費を貯金していた。ところが、高校卒業の直前に母親が他界したことで生活保護を打ち切られ進学を諦めることに。わずか18歳で住むところまで追われそうなほどの貧困にあえぎながらも、必死に生きる少女の生き様を描いた話題作。

作者プロフィール:
くりきあきこ
漫画家。『おそうじします!』 『ブレッチェン~相対的貧困の中で~』 『21歳の水平線』などが代表作。
Twitterアカウント:@akikokuriki1


構成/大槻由実子
編集/坂口彩