叔父や母、父の親友の話を聞くうちに、今の自分よりも若かった頃の、父の不完全な人物像が見えてきた
青山:大介さんとはオープンダイアローグでもご一緒してますよね。他のチームでも感じるんですが、オープンダイアローグって、グリーフケアの場になることが少なくありません。誰かが亡くなった家族の話をされて、それを受けて他の誰かがお父さまやお母さまの話をされて、さらに私も自分の親の話をする。そうすることで、なぜか亡くなった方の人物像の解像度が上がっていく……。今回の本でも、お父様を代弁するように話をされる方、フラットで客観的な方、直感的な方、と色々な方がお父様の話をすることで、お父様がどういう人だったという答えを出すよりは、それを共有していくことに凄く大きな意味があるように感じて。そういう意味で、この本も一冊がオープンダイアローグの場のような、グリーフケアの場になっているように思います。
鈴木:そうなんです。共有していくことで、遺されたものが救われることを、今回の試行錯誤の中で学ばされました。 確かにグリーフケアの本なんです、あくまで我が家にとっては、ですが。良い置き土産をしてくれたな、と思います。ただ、父が生きているうちに嫌悪感を感じていた部分がクリアになって、僕が勝手に貼り付けた醜いレッテルが無くなっていたら、父と過ごす残された時間をもうちょっと大事にできたんじゃないか、とは思います。父と僕は趣味嗜好の共通点が多いし、今からでも父に聞きたいことはたくさんある。父が子どもの頃の話、昔の時代のこと、文化の話、食べ物、お酒……別にべらべら喋り合うんじゃない、100%のコミュニケーションの回復ではなくて。
僕は父から褒められた経験が一度もなかった。「それはどうしてだったのか、もっとこうしてほしかった」という要望もありますが、それを掘り下げてもどうしようもない。ただ、叔父や母、父の親友の話を聞くうちに、今年50歳になる自分よりも若かった頃の、父の不完全な人物像が見えてきて。25歳とか30歳の頃の父は本当に頑張ってたんだな、と。近くにいたらちょっと酒をおごってあげたいような、可愛らしい若者の姿が見えてきたんですね。その姿が立ち上がってくると、息子に対して肯定の言葉をかけられなかったことなんて、どうでもいいと思えてくる。
父の生前にそのエピソードを聞いていれば……そうか、そう考えたら、父との対話の中じゃなくて、父の生前に周辺から聞くことをして、目の前にいる父ではない、過去の若かった頃の父の像を、ちゃんと僕が持っていれば、全然違っていたんじゃないかな。そしてそれは、誰にでもできることだと思います。
鈴木大介 さん
文筆業。1973年千葉県生まれ。主な著書に、若い女性や子どもの貧困問題をテーマとしたルポルタージュ『最貧困女子』(幻冬舎新書)、『ギャングース・ファイル――家のない少年たち』(講談社文庫、漫画化・映画化)や、自身の抱える障害をテーマにした『脳が壊れた』(新潮新書)、互いに障害を抱える夫婦間のパートナーシップを描いた『されど愛しきお妻様』(講談社、漫画化)などがある。2020年、『「脳コワさん」支援ガイド』(医学書院)で、日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。
Twitter:@Dyskens
青山ゆみこさん
フリーランスのエディター/ライター。1971年神戸市生まれ。月刊誌副編集長などを経て独立。単行本の編集・構成、雑誌の対談やインタビューなどを中心に活動し、市井の人から、芸人や研究者、作家など幅広い層で1000人超の言葉に耳を傾けてきた。〔ミモレ編集室〕にゲスト講師としても登場。著書に『人生最後のご馳走』(幻冬舎文庫)、『ほんのちょっとの当事者』(ミシマ社)等。
Twitter:@aoyama_kobe
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『ネット右翼になった父』
(講談社現代新書)
鈴木大介:著
ヘイトスラングを口にする父、テレビの報道番組に毒づき続ける父、右傾したYouTubeチャンネルを垂れ流す父……老いて右傾化した父と、子どもたちの分断「現代の家族病」に融和の道はあるか? ルポライターの長男が挑んだ、家族再生の道程!
取材・文・構成/露木桃子
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