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Netflixの『新聞記者』でご一緒したプロデューサーの河村光庸さんと、藤井道人監督がタッグを組んだ『ヴィレッジ』の試写を観ました。

©️2023「ヴィレッジ」製作委員会

舞台となっているのはタイトル通り、日本のとある集落、霞門村。
伝統的な薪能が行われている美しい村ですが、山には巨大なゴミ処理場があって、主人公の片山優はその施設で働いています。
かつて父親が事件を起こしたことで肩身の狭い思いをしながら暮らし、母親の借金を背負っている優。人生を諦めたように生きている彼の人生が、幼なじみの美咲が東京から帰ってきたことで、少しずつ変化していきます。

 

親から子への負の連鎖や、格差のある関係、貧しさや暴力、環境の問題……、小さくて閉鎖的な村のなかでいくつもの“隠し事”が描かれていて、行き場のないやるせなさや悔しさを感じ、胸が苦しくなりました。
言いたくても言えないことが悲劇的な方向へと転がっていく物語を見ながら、この村もゴミ処理場もひとつの例えであって、同じようなことが世界で起こっているのだろうな、と。主演の横浜流星くんをはじめ、みんな完成までよく踏ん張れたなぁと思ってしまったほど深く、重い作品になっています。

わかりやすい悪者かと思いきや、だんだん違う表情を見せる村長を演じた古田新太さん、権力を持つ一族の母を語らずに演じた木野花さん、優に希望を与える美咲を演じた黒木華さん、彼女の弟を繊細に演じた作間龍斗さんも素晴らしかった。
流星くんは『新聞記者』で共演したとき、藤井監督と似ていると思ったのですが、この作品ではまた違う強烈な存在感を放っていたと思います。

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©️2023「ヴィレッジ」製作委員会

『ヴィレッジ』は社会に訴えかけるような作品を作り続け、昨年この世を去った河村さんが最期に取り組んだ映画です。
夢に出てきてしまうほどヘビーな後味を残す作品で、無邪気に面白かったと言える映画ではないかもしれません。藤井監督にも、「辛かった。丸く収めようとしないところが印象的でした」と正直に感想を伝えました。
でも『新聞記者』や前後編で5時間にもわたる『あゝ荒野』からも感じられた、こういう映画を作りたい、作らなきゃいけないんだ! という河村さんの情熱がみなぎっている作品です。

©️2023「ヴィレッジ」製作委員会

自分が信じたことに向かって突き進んでいく河村さんはものすごく粘り強いプロデューサーで、藤井監督と仕事をしたときも、何度断られても口説き続けたと聞きました。
「過去の作品はこうだったけど、君にはこれが向いていると思う。君しかいない」。
そんな風に私にも熱意あふれる言葉をかけてくれた人です。
『ヴィレッジ』も観客動員数だけを気にしていては作れない映画だと思うし、辛い現実が他人事とは思えなくなる作品になっています。
物語や役柄に自分を重ね合わせて、いつの間にか社会に隠された問題について考えている。『ヴィレッジ』はそういう時間を与えてくれる、力のある作品だと思います。

<映画情報>
『ヴィレッジ』
4月21日(金)全国公開

©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
 

美しいかやぶき屋根が並ぶ山あいの霞門かもん村。その上にそびえる山々の間からのぞくのは、のどかな景観におよそ似つかわしくないゴミ処理施設である。そこで働く作業員の優(横浜流星)は、かつて父親がこの村で起こした事件の汚名を背負い、母の抱えた借金の支払いに追われ、希望のない日々を送っていた。ある日、7年前に村を出て行った幼なじみの美咲(黒木華)が帰ってきたのをきっかけに、優の運命が動き出す。

配給:KADOKAWA/スターサンズ

文/細谷美香
構成/片岡千晶(編集部)

 

 

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