宮沢賢治はすごい表現者であり、身近にも感じられる人


——映画『銀河鉄道の父』の原作は直木賞を受賞したベストセラー小説です。この物語に触れて、菅田さんは最初にどんな感想を抱きましたか?

菅田将暉さん(以下、菅田):宮沢賢治と言えば教科書に載るレベルの“偉人”かつ“天才文豪”というイメージがありましたが、原作小説の中では身近な人に感じられるんです。父親である政次郎さんの目線で語られている部分も多いから、家族と賢治の関係にフォーカスされているのが面白かったですね。賢治役としてオファーをいただいたときは、成島出監督の演出なら絶対に面白くなると思ったし、役所広司さんと親子を演じられることも嬉しくて、迷わず出演を決意しました。

菅田将暉「親バカは子どもにとっての幸せでもある」尊重してくれた父、自身が思い描く家族の愛_img1


——役づくりの一環で改めて宮沢賢治の作品に触れたと思いますが、教科書で読んだ子どもの頃とは印象が変わった部分はありますか?

 

菅田:『注文の多い料理店』や『セロ弾きのゴージュ』をはじめ、やっぱりファンタジックな創作物が多いイメージだったんです。彼は幼少期にアンデルセン童話に憧れていたというエピソードもありますし。でも、『春と修羅』という詩集は病気で亡くなった妹を悼んだ作品だし、身の回りの出来事をそのまま書いている作品もたくさんあるんです。そして、そこで使われている言葉にものすごく色気があって、色褪せない魅力を感じてしまって。どこまでも読み手に響く文章にこだわっていたことが伝わってきて、すごい表現者だなと思いました。

——数ある詩集の中には自分自身の恋愛経験を綴った作品もあるんですよね。

菅田:そうそう。それこそ僕が好きなのは、賢治が失恋した後に残した詩で。必死に自分の欲を制限しようとしているんです。自分自身の生々しい本能と向き合いながら、その気持ちを押え込もうとしていて……とても繊細で自分に厳しく、他者に優しい人だったんだと思いました。