離婚、子連れて再出発


「仕事は絶好調でしたが、実は夫婦関係はさまざまな要因があり順調とは言い難く……開院したあと授かった娘はまだ保育園でしたが、離婚して別の道を歩くことになりました。

娘と2人で小さな部屋を借りて暮すことに。こういうとき、歯科衛生士の資格と手に職があることは心強かったです。仕事があれば、なんとしてでも娘を食べさせることができると信じて、新しい職場を探して就職しました。それまでは苦労があっても恵まれた生活だったので、心細くて涙が出ることもありましたが、その分自由だと自分を奮い立たせていました

この頃は、正直に言えば人生の厳しさを痛感したという今井さん。シングルマザーは働く時間が限られるうえに、体調の急変などでどうしても周囲に迷惑をかけてしまうことがあったといいます。結果的に、思うようにお金を稼ぐことができませんでした。精一杯働いても余裕がない暮らしへの不安を、今井さんはぐっと飲み込んで、ひたすらに頑張りました。

「好きなだけで歯科衛生士の道に飛び込みましたが、シングルマザーになって、手に職があってよかったなと感じました」(今井さん)

なんとか生活が落ち着いてきた30代、今井さんは自分のなかに潜んでいた思いを自覚しはじめます。

 

「歯科衛生士として働き、大好きな仕事で満足度はとっても高かった。でも、プライベートを考えると、まだ求めているものがあるような気がして。私はあまり気持ちを言語化するのが得意じゃなかったので、自分は何ができるのか、何がしたいのかを明確にするため、プロの手を借りてコーチングを受けてみることにしました

そこで教わった手法のひとつが、自分がどうなりたいかを素直に書き出してみる、というもの。以前から興味があったリラクゼーションマッサージをキーワードに、それを通して何を提供したいのか、誰を救いたいのかを深彫りしていったといいます。

「次第に、自分が求めているものや、創り出したいものが明確に、クリアになっていく感覚がありました。すると心が穏やかになり、落ち着いていくのが感じられました」と今井さん。また、暮らしのこと、仕事のこと、さまざま書くうちに、どのように生活していきたいのか、どう生きたいのかというイメージも広がります。

お子さんと居心地のいいお部屋に住み、車で自由に自然豊かなところに連れて行ってあげたい。そして仕事では、自分にしかできないやり方で人を癒す方法を探したい。奉仕したいし、サービス業を極めたい。

今井さんは生活のために必死で働く心の奥底で、はっきりとビジョンを抱いていたのです。

「例えばそのような暮らしは、娘を育て、なるべくそばに居ようとおもうと歯科衛生士の仕事だけで叶えることは難しかった。だからといってそこで諦めるのは違うなと思って、もっと考えてみました。

収入を増やしたい。シングルマザーを言い訳にせず、その気持ちも大切にしようと思いました。そして、歯科衛生士だけが好きな仕事と決めつけず、やってみたい仕事が他にもあるかもしれないと視野を広げました。

節約してお金を貯める、というよりもどういう働き方で、どのくらい働けば理想の生活に近づけるか。それを具体的に考え始めたのです

そこで今井さんが開始したもう一つのお仕事と、具体的なステップはどのようなものだったのでしょうか?

後編では、周囲もあっとおどろいたシングルマザー今井さんの「大勝負」、そして「天職の二足のわらじ」をはくまでの道のりをご紹介します。
 


歯科衛生士
リラクゼーションサロン「cocoluana」代表兼セラピスト
今井恵理さん
Eri Imai
東京都出身。都内の歯科クリニックにて勤務しながら2023年、自宅でサロン「cocoluana」をオープン。
@eriimai 
▶ @cocoluana_eri_therapist 
 


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取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙

 

 

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