メロディに導かれ歌詞となって出てきたのは、「きっと前進できている」ということ


──8月2日のCD発売に先駆けて『勇者の旗』のMVがYouTubeで公開されてから、視聴者からのコメントが次々と寄せられています。どんな背景で制作が始まった楽曲ですか?

工藤静香さん(以下、工藤):最初は“壮大で美しいメロディーの曲”を歌いたいという漠然としたテーマがあって、村松崇継さんに作曲をお願いしました。もともとシングルを出すことが前提ではなかったのですが、届いたデモを聴いてみたら私の気持ちとぴったりとリンクしたので、これは皆さんに個別に受け取って欲しいなと。

とはいえ、なかなか作詞に集中する時間を作ることができなかったのですが、その代わりに来る日も来る日も頭の中でこの曲のメロディーを響かせて、自分の気持ちが整うまでの助走期間を過ごしていました。そして、仕事でニューヨークに向かう際に、飛行機の中で一気にスイッチが入って。周囲の人が寝静まっている時間に、一人でワンワン泣きながら作詞していました。

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——工藤さんが『愛絵理』という名義で作詞されるようになって30年近く経つと思いますが、歌詞を書きながら涙を流すことはよくあることですか?

工藤:ちょこちょこ、あります。特に1回目は細かいことを気にせず感情に任せて言葉を綴りますし、メロディーに導かれて自分自身の本音に気づかされて感極まってしまうことがあります。最初に出てきた生々しい言葉は後から手直しが必要だったりするのですが、今回はスムーズにまとまった気がします。

 

——ミュージックビデオは工藤さんが白い雲に包まれて歌っているようにも見えます。飛行機の中で作られたからこそ、聴く人を優しく包み込んで、気持ちを上向きにさせるような応援歌になった部分もあるのでしょうか。

工藤:そうですね。雲の上にいたからこそ浮かんできたフレーズがあったのは間違いありません。本当に応援歌のような曲に仕上がりましたし、最近は私自身も『勇者の旗』を聴いて励まされているんです。1日1回聴くと、気持ちがリセットされるんですよね。完成した自分の曲を素直に楽しめることが私の強みかも(笑)。それは村松さんも同じみたいで、「僕も毎日聴いてます! 『勇者の旗』が心のお守りになってます」と言っていました。

——“勇者”という力強い言葉に込めた思いとは?

工藤:誰しも失敗して立ち止まることがあると思いますし、辛い状況に直面して落ち込むこともあります。でも、私が歌詞を書きながら考えていたのは、どうにもならないように見える状況でも、そこから抜け出したいと思った時点で、きっと前進できているということ。「どうしよう……」と頭を抱えてしまうのも、自分を取り巻く問題と勇敢に立ち向かおうとしている証拠。そうやって悩んでいる時間もポジティブに捉えることができたら素晴らしいな、と。

 

だって、みんなが悩みながら考えているのは、自分を導く方法ですよね。なかなか答えが見つからなくても、立ち上がろうという気持ちがある自分のことを褒めてあげてもいいですよね。そんな心持ちでいれば、今よりも1ミリぐらいは前に進める。その1ミリの積み重ねが大事なのではないかと思っています。