作家・ライターとして「現代の男女が抱える問題」について取材をしてきた佐野倫子。その赤裸々な声は、まさに「事実は小説より奇なり」。社会も価値観も変化していく令和の夫婦問題を浮き彫りにします。

今回取材をしたのは「海外で出会った7歳年下のイケメンゴルファー」と結婚した明莉さん。取材前にプロフィールを拝見して「海外志向で、アスリート……素敵なご夫婦」と思いましたが、現実の結婚生活は、なかなか一筋縄ではいかないようです。

 

取材者プロフィール
妻 明莉さん(仮名):43歳、昨年起業してゴルフスクールを運営。
夫 智明さん(仮名):36歳、ゴルフコーチ。

      
 

方便で口にした海外の地名。偶然?運命?


「私はとても直感的に生きてきました。モットーは『流れに逆らわない』。人生にはタイミングとか縁があって、その流れに乗ったほうがあるべき方向にいくと思っているんです。26歳のとき、オーストラリアにワーキングホリデーに行ったのも、全く予想もしておらず、ただ流れに乗ったという感覚でした」

小柄で笑顔が絶えず、西海岸風のファッションを身にまとう明莉さん。いるだけで周囲が元気になるタイプの方です。お話を伺うと、20代の彼女はたしかに直感的な行動力にあふれていました。

明莉さんが勤務していた会社が外資系に吸収され、英語はからきしでしたが、業務では英語必須に。必死で事務をこなしますが、あまりにも語学力がなく、転職を考えます。

上司に退職を相談するときに、方便で「英語を身につけたいから語学留学したくて」と言ってしまった明莉さん。場所を尋ねられ、なぜか行ったこともないけどテレビで見たオーストラリアのゴールドコーストが頭に浮かび、勢いそのままに告げたといいます。

すると上司が大層驚き、「凄い偶然だ、ゴールドコーストで姉が飲食店を経営していて、きちんとしたレセプションや事務ができる日本人スタッフを探したいと相談されている。勤務時間も夕方からだし、姉が持っているアパートに住めるらしい。そこでアルバイトしながら学校に通ったらどう? 明莉さんみたいな明るくてマメな人ならすごく喜ぶよ」と信じられないようなオファーをくれたそう。

「留学する気など全くなかったので、どうしようかと思いました。でも、なぜか縁を感じて、ここはひとつ乗ってみようと。住み込みの条件ももったいないくらいで、大して貯金もありませんでしたが、どうにか生活していけそうです。それならば、英語を学ぶチャンスだと思い、2ヵ月後にはゴールドコーストにいました」

取材のスタートから、明莉さんのフットワークの軽さが伺えるエピソードです。この時点で明莉さんの英語力はほぼゼロでしたが、持前のコミュニケーション力でめきめき上達。そして語学学校の友達の紹介で、ゴルフ留学していた19歳の智明さんに出会いました。

「彼がレストランに入ってきて、一目見た瞬間から『あ、この人と一生一緒にいるな』と、ただ静かに確信しました。一目惚れとも違う感じで……。そして驚くべきことに、彼も『この人と結婚するな』と思ったそうです。だからすぐに付き合い始めて、結局その通りになりました。もっとも結婚に拘っていなかったので、入籍したのはその8年後なんですけども」

7歳差で、海外で出会ったというだけで人となりも育った環境もバックグラウンドもなにもわからない状況で結婚を確信。そんなことが実際にあるのだろうかと首をかしげたくなります。

しかしお話を伺うほどに、お2人とも直感を大切に行動してきたタイプ。その結果、センサーが研ぎ澄まされ、パートナーになれる人と会ったときにピンときたのかもしれません。

そのくらい確信が持てる相手などそうそういませんから、羨ましい限りです。

……しかしその強い確信は、果たして「思い込み」とどう違うのか、それについて取材中何度も考えることになります。