強固な力関係のはじまり


祐介さんが元妻と出会ったのは29歳のとき。食事会で出会い、当時24歳だった彼女に一目惚れしたそうです。彼女は不動産会社の事務職をしていました。

「とにかく見た目がタイプだったんです。彼女は絶対にモテるし、僕なんて眼中にないだろうと思いつつ、頑張って会話をして必死にアピールしました。意外と会話が盛り上がったのでダメ元でデートに誘ったら応じてくれ、すごく嬉しかったです」

元妻の写真を見せてもらうと、たしかにアイドルのような可愛らしさが印象的な女性でした。祐介さんにとって彼女は、まさに高嶺の花のような存在だったよう。

それから何度かデートを重ねたそうですが、しかしなかなか交際までには至らず。もちろん祐介さんは何度か告白をしましたが、その度に断られてしまったそうです。

「付き合うことはできなくても、元妻のような人とたまに会えるだけで嬉しかった。たぶん、あの頃は他に彼氏がいて、僕とは暇つぶしか気まぐれでデートしてくれてたんだと思います。でも、それで十分でした。いつ彼女に呼び出されても大丈夫なように、週末の予定はぜんぶ開けたりしていました」

職業柄、様々な男女関係の悩みを聞くことがありますが、これはまさに「本気になった男性の行動」だと思います。言ってしまえば、男性はひとたび本気で女性に惚れ込むと、彼女のために何でもしてしまう。そんな印象を持つことが多いです。

 

「1年ほど男友達として過ごしましたが、あるとき『やっぱり私には祐介くんが合っていると思う』と言われ、交際に至りました。夢見心地ではありましたが、歴代に付き合っていた彼氏の話を聞くと、医者や経営者などのハイスペックな男性ばかり。そんな彼女が僕と付き合ってくれるんだから、そのぶん彼女を幸せにしなければいけないし、仕事ももっと頑張らなければと思いました」

 

お話を聞いていると、この頃からお二人の間にはすでにかなりの力関係が働いていたようです。

ちなみに元妻を崇めるような発言が多い祐介さんですが、彼も長身で外見は爽やか、高学歴の持ち主でもあり、大企業勤めで、何より素直な人柄の良さが言葉の節々に滲み出ています。間違いなく女性の需要は高い男性で、お二人は十分お似合いで対等な立場だと思いますが、なかなか交際に応じてもらえなかった経験や、歴代の恋人と自分を比べてしまったことで、無意識のうちに元妻に対する評価が高くなりすぎてしまったような気がします。

そして2人は半年ほどの交際を経て、祐介さんは彼女の誕生日にプロポーズをしました。

「最初から彼女と結婚したいと思っていたので、サプライズのために色々と打診したところ、婚約指輪のダイヤは絶対に1ct以上のものが欲しいと言っていました。初めてデパートに下見に行ったとき、僕の目からはそう大きさの変わらないダイヤの値段が200万円も300万円もして驚きました。こんなに高いのかと」

結局、祐介さんが選んだのは350万円弱の1ctのダイヤ。かなり予算はオーバーしていたものの、最愛の彼女のためなら……と分割払いで購入。プロポーズは成功しました。

「僕なんかと結婚してくれるんだから、一生モノの指輪くらい頑張らなければと思い、人生で初めてあんなに高いものを買いました。でも、それが始まりだったんです。その後、妻の希望の結婚式やハネムーン費用も合わせると計1000万円ほどかかり、貯金がほぼ消えました。でもやっぱり結婚は一生に一度なんだから、このくらいは仕方ないと自分に言い聞かせていました」

ちなみに、諸々の費用を元妻が負担することはありませんでした。何となくそういう流れになり、しかし祐介さんも彼女に分担させる気もなかったそうです。

そして、その暗黙の、かつ強固なルールが後々のトラブルの元となっていくのです。

「結婚生活は幸せでした。母親だけが『ちょっと贅沢しすぎじゃない?』と渋い顔をしていましたが、元妻は外見が可愛いだけでなく愛嬌もあったので、基本的には周囲の評判は良かった。うちの親にも必ず手土産を持参したり、誕生日なんかのイベントにはプレゼントを送ってくれて、自慢の奥さんだと思っていました」

おそらく、元妻の贅沢には悪意があるわけではないのでしょう。推測ですが、彼女は祐介さんが夢中になるのも仕方がないような小悪魔系、加えてとても要領が良さそうな女性像が浮かびます。

その後、まもなくして元妻の妊娠が発覚、夫婦は幸せの絶頂を迎えました。しかしながら、元妻が仕事を辞めてから、祐介さんはだんだんと違和感を覚え始めたのです。