猫と一緒に暮らす人にとっては、家族のように大事にしている猫と1日でも長く暮らせるのは幸せなことです。その一方で、猫も飼い主も年齢を重ねていくことになります。

それでも、猫とともに暮らしてきた時間はかけがえのないものですし、シニアになった猫だからこそ、愛着もひとしおです。そこでミモレでは、シニア猫(ここでは10歳以上と定義)と暮らす人たちのお話に耳を傾けてみようと思っています。

今回、シニア猫について話をしてくれたのは、会社員のあいさん。13歳の時から猫との生活を続けており、今、一緒に暮らしているのはうさた(19)。人間の年齢でいえば92歳ですが、今年8月に腸腺癌であることが発覚。あいさんは、年齢や体力を考えて手術はしないと決めました。週数回の通院や自宅での点滴を行っていますが、うさたと穏やかな日々を過ごしています。あいさんが、そう遠くはない時期に訪れる別れを前にした心境を話してくれました。

貫禄の箱乗り姿を見せる、13歳のうさた(写真提供:あいさん、以下同)
<飼い主プロフィール>
あいさん(40代)
人材紹介サービス、求人メディアを運営する企業の広報。バツイチで長らく猫と二人暮らし。13歳から猫がいる生活を送り、20歳で実家を出てから、4匹の猫と暮らしたがみんな早逝で、一番頑張った猫が5歳。30代前半の時に思いがけず、うさたを受け入れることになり、今年で19年目。あいさんにとって初めてのシニア猫になった。
<同居猫プロフィール>
うさたさん(19)
耳が大きくて真っ白な白うさぎのような白猫。若い頃からおっさんっぽい見た目。内弁慶だが飼い主には上から目線。あいさんの先代猫であるハチワレのたびすけ(享年5歳)が病気で亡くなって1年弱の頃、当時別れたばかりの元カレが自分の荷物を引き取りに来た時に、なぜか連れてきた子猫がうさた。あいさんは元カレに激怒したものの、所在なさげにしている情けない姿に根負けして迎え入れることに。
 

13歳の時から家に猫がいて、20歳前に実家を出てからも猫を飼っていました。うさたは今、19歳なので、家族よりも長く同居し、人間としても猫としても一緒にいる時間が最も長いオスということになります。

私が30代前半の時、元カレが突然連れてきた、約2ヵ月の子猫がうさたです。事前に何の相談もなかったため、「無責任すぎる!」と激怒したのですが、その横でしょんぼりとした姿を見て、根負けして引き取りました。彼が猫を連れてきた理由が、私が先代の猫を亡くして落ち込んでいたからなのか、それとも他に理由があったのか、本当のところはわかりません。

あいさん宅に来たばかりの、生後約2ヵ月のうさた。あざとかわいい寝顔を見せつけています

ほとんどオス猫を飼ったことがなかった私は、元気いっぱいで落ち着きがないうさたに動揺! 柔らかいものは何でも口にしてしまうので、枕やシーツ、カーテンはボロボロで、ティッシュなども食べてしまいます。私は自分のことを“猫のベテラン”くらいに思っていたのに覆された感じ。「自分で選んで迎え入れた子じゃないから、私はこの子を好きになれないんじゃないか?」と、半ば“育児ノイローゼ”状態に。でも、とうとう誤食のせいで腸閉塞になり、開腹手術をしなくてはならなくなりました。手術を乗り切った時、引き取った以上は最期まで育てないと、と覚悟が決まった気がします。

その後、1歳くらいで尿路結石が明らかになりました。オス猫に多いと聞いてはいたものの、早すぎます。小さい頃から顔がおっさんっぽかったのですが、病気もおっさんみたい(笑)。ただ、早い段階でキャットフードを療養食に切り替えたおかげか、いまだに腎臓は大丈夫なようです。

30代の私は仕事が楽しくて、多忙で、転勤や出張が多かったんです。京都に住んでいる時にうさたと出会い、その後、東京、福岡、東京に引っ越しましたし、6年前には東京でマンションを買ったので、うさたも5回以上は引っ越ししたことになります。「猫は家につく」と言いますが、環境が変わってもうさたは受け入れてくれました。

転職して仕事が落ち着いてきたのが、10年くらい前のこと。うさたはシニア猫の年齢に差し掛かっていました。若い頃は遊びまくって、自分のことで精一杯だったうさたも、この歳になると、猫らしく穏やかになってきた気がします。私が大好きなサッカー観戦に付き合ってくれるようになったのも大きな変化のひとつ。昔はテレビの音や私の声援がうるさかったからか、他の部屋に行ってたんですけどね。趣味で長唄をしているのですが、お稽古をしていると膝の上に座って合いの手を入れてくれることもあります。

あいさんは大のサッカーファン。シニア猫になったうさたが観戦に付き合ってくれるようになりました。

あと、これもシニア猫になってからの変化なのですが、うさたは私を毎日寝かしつけてくれるんです。私がリビングルームで過ごしていると、寝る時間が近づくと呼びに来て、寝室まで先導してくれます。途中で私がうさたを追い抜くと、なぜかやり直し。私がベッドに入ったのを確認したうさたは、自分のトイレや食事を済ませに行き、しばらく一人の時間を過ごしてからベッドに戻り、一緒に寝ます。うさたは私の年齢をいつの間にか追い越し、立場も逆転。今では完全にうさたが私の保護者です。