共働き世帯が増えている現代、結婚して専業主婦になるという生き方を望んだ女性はどうなるのか? もしかしたら本作の主人公のようになってしまう? そう感じるのは『私がひとりで生きてくなんて』。4月にドラマ化されて話題になった『あなたがしてくれなくても』の作者・ハルノ晴さんの最新作で、離婚を切り出された20代専業主婦の再起ストーリーです。

短大を卒業後、すぐに結婚してから専業主婦としてのんびり過ごしてきた愛菜・26歳・子無し。仕事で全国を飛び回る友人がちょっとうらやましいけれど、家の中だけで完結する平凡な生活に満足していた矢先、夫から離婚を切り出されます。

 

弁護士に相談しようと間違えて入ったのは税理士事務所。世間知らずのまま放り出されてしまった職歴ゼロの彼女は、自分の人生を取り戻すため、世間の荒波に揉まれるのです。

 

専業主婦ってそんなにダメですか?


夫からは「なんかさだんだんニート養っている気になったんだよね」
離婚で私だけ何もなくなっちゃう、と言うと税理士には「本当に不公平だと思いますか?」
離婚を切り出された後に見つけたバイト先のスーパーでは「小遣い稼ぎに来るブランクありの専業主婦の使えなさ」と散々に言われる愛菜。

 

でも、これって彼女だけの責任なのでしょうか?
もともと彼女は、地方転勤になる彼に「俺と結婚してついてきてくれ」「専業主婦でいい」と言われたから引っ越し、社会人になって働くという可能性を捨てたのです。夫の都合で道を閉ざされていたように見えませんか。

愛菜に浴びせられる言葉は、年齢問わずこれまで専業主婦だった女性が世間に出ると味わうものです。結婚適齢期になると「結婚しろ」「家庭に入れ」と言われたからいざその通りに生きてみたのに、配偶者の都合ではしごを外され、経済力のない自分一人が残される。

この時の心境を彼女は「誰もハンカチさえ貸してくれない」と表現しています。

 

ぬるま湯の風呂からいきなり出されて裸のまま世間に放り出される。この表現がすごいなと思いませんか?
この大きな手はきっと「社会」なのでしょうね。

愛菜は、日本社会の犠牲者なんだ⋯⋯とふと思いますが、単にそうも言い切れないところがあるんですよね。
 

愛菜は「風の時代」の洗礼を受けている?


「風の時代」という言葉をこの数年見聞きしませんか? 西洋占星術の世界では2020年を境に、家庭やお金など形のある安定に価値があった「土の時代」から、個人の自由と平等が重視される「風の時代」に移り変わったとされています。

本作は、まだ土の時代的な考えで生きている愛菜が、一気に風の時代の洗礼を受けるストーリーに見えます。

そしてここがキモ。離婚を切り出された愛菜が苦労しているのは、風の時代に入ったとはいえ、お金や経歴という土台が一切必要なくなるというわけでもないからなんですよ⋯⋯。
実際のところ、「土ありきの風の時代」というなかなかハードな時代が訪れているんだと知らしめてくれています。「結婚がゴール」だと思っていた愛菜はそのことがわかっていないのです。

また、西洋占星術での「風」というのは「ズバッと冷静に言い切るコミュニケーション」も表すのですが、辛辣ながらも愛菜に事実を教えてくれる弁護士事務所の所長・岸本は、まさに「風らしい」キャラです。

 

もうちょっと言い方があるでしょ? と思いつつも、歯に衣着せぬ発言はこれからの時代をサバイバルするために必要なのかも。

離婚後の愛菜を見ていると、彼女は「誰かに優しくされたい欲」が強いんですよね。案の定、岸本所長にポッと恋心を燃やしそうになっていて、正直危うさを感じてしまいます。もっとシビアに冷静になって、自分の状況を見つめて生きていかないとダメなんじゃない? と思いつつ、一歩踏みだす彼女が自分の人生をどう手にいれるのかが気になる作品です。

 

『私がひとりで生きてくなんて』第1話を試し読み!
▼横にスワイプしてください▼

 

<作品紹介>
『私がひとりで生きてくなんて』
ハルノ 晴 (著)

短大卒業後、すぐに結婚し専業主婦になった愛菜。人生勝ち組の主人公だと思っていた、夫に離婚を切り出されるまでは⋯⋯。ひとりきり、冷たい世間に投げ出された愛菜。弁護士を頼るつもりが誤って税理士を訪ねてしまい⋯⋯? 愛菜は自分の愛を、そして人生を取り戻すことができるのか?

『あなたがしてくれなくても』のハルノ晴最新作! 離婚宣告から始まる人生やり直しストーリー!!

作者プロフィール​
ハルノ 晴

漫画家。2017年、双葉社「漫画アクション」にて『あなたがしてくれなくても』を連載。扱いづらい夫婦間のセックスレスを繊細に描き話題となる。2023年4月実写ドラマ化。その他の作品に『僕らは自分のことばかり』など。現在は『私がひとりで生きてくなんて』をコミックDAYS(講談社)にて連載中。


構成/大槻由実子
編集/坂口彩