現在、週刊ヤングマガジンで連載中の『王の病室』が話題を集めています。医療マンガといえば、患者のことを第一に考えて命を救う医師や、神業の持ち主で、難手術を成功させてしまう医師など、勧善懲悪のヒーローとして描かれることがしばしばあります(もちろん例外もありますが)。本作は、延命治療の是非や、高額な治療でも高額療養費制度でカバーできてしまう現実の裏にあることなど、日本の医療政策や、医師が置かれたシビアな立場、社会保障のあり方に鋭く切り込んだストーリーです。そのあまりのリアルさに、「そこまで描いてもいいの?」と思えるほど。原作の灰吹ジジ先生に、作品に込めた思いを聞きました。
救急搬送された患者の命を救ったのに、怒られた!
物語の主人公は、初期研修医1年目の赤城誠一(24)。父は開業医だったものの、不採算経営で病院を潰してしまったことがあり、息子である赤城は、外車を乗り回して、都内に戸建ての家買って、ついでに美人の愛人を囲っちゃうような、“儲かる医師”を目指して医学部合格を果たします。しかし、現実は厳しく、研修医の生活は過酷なもの。年収350万円で、24時間超えの連続勤務は当たり前。夜勤では経験が浅いのに、どんな急患が来ても対応しなければならない辛さがあります。
ある日の夜、85歳の独居老人が心肺停止状態で病院に運び込まれます。上級医(研修医の指導医)の高野孝太郎は別の患者にかかりきりで、一人で心臓マッサージをするように指示されます。当直でCPR(心臓蘇生)をしたことがない赤城は焦りながらも必死で心臓マッサージを行います。しかし、気管挿管(気管にチューブを挿入し、圧をかけながら純度100%の酸素を送り込む処置)を行わないと、患者の命を救えない状態に陥ります。気管挿管は実習でしかやったことがない赤城でしたが、なんとか成功し、患者の一命をとりとめたことに安堵します。しかし、そんな赤城に対して、高野は「余計なことをしてくれる」と一言。
必死の思いで患者の命を救ったのに、心臓マッサージだけしていればよく、挿管せずに見殺しにすべきだったと高野に言われ、納得がいかない赤城。医局に戻ったら、総合内科診療科長の医師・獄門院聖(ごくもんいんひじり)にも、追い打ちをかけるように「カネは取るくせに なんで人助けとか言っちゃうワケ?」と問われます。
医師は特別な存在ではなく、あくまで技能職のひとつであって、本来は対価を得て医療を提供するのみ。気管挿管後につけた人工呼吸器は、一旦動かし始めると外すことはできず、家族は先の見えない看護や医療費を負担することになります。それが本当に「人助け」なのかと。
「儲かる医者」になりたいと言っていたはずの赤城は、獄門院の問いかけに、「患者さん本人はきっと助かりたかったはずです!!!」と熱く反論。現実を冷静に指摘する獄門院と、患者の命を救うことに必死になった赤城、果たしてどちらが正しいと言えるのでしょうか?
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