猫と一緒に暮らす人にとっては、家族のように大事にしている猫と1日でも長く暮らせるのは幸せなことです。その一方で、猫も飼い主も年齢を重ねていくことになります。

それでも、猫とともに暮らしてきた時間はかけがえのないものですし、シニアになった猫だからこそ、愛着もひとしおです。そこでミモレでは、シニア猫(ここでは10歳以上と定義)と暮らす人たちのお話に耳を傾けてみようと思っています。

今回登場するのは、都内で自然派ワインの店を営むしずかさん。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年に、アメリカンショートヘアのミエルさん(当時12)にガンが見つかります。検査をするだけでも全身麻酔が必要で、積極治療を行うとなると猫も飼い主も、その負担は相当なものになります。もしあなたならどんな決断をしますか?

窓際で穏やかな表情を見せるめーちゃん(写真:しずかさん、以下同)
<飼い主プロフィール> 
しずかさん(40) 
7年前に都内にオープンした、自然派ワインの店のオーナー。かねてから猫を飼いたいと思っていて、14年前に当時交際していたパートナーと一緒に、ブリーダーの元で生まれたミエルを迎え入れることに。
<同居猫プロフィール> 
ミエル(14) 
14年前、生後約3ヶ月の時に、しずかさんの飼い猫になった、アメリカンショートヘアのオス猫。毛色はカメオタビーで、淡い茶色なので、名前はフランス語で「ハチミツ」という意味のミエルに。愛称はめーちゃん。オス猫らしく甘えん坊で、穏やかで、優しい性格の持ち主。
 


14年前、ブリーダーさんのところに行ったら、アメリカンショートヘアの3匹兄弟がいて、一番なついてきたのがめーちゃんでした。実家で犬を飼っていたことはありますが、自分でイチから育てるのは初めての体験。でも、めーちゃんは元気だけど、おっとりしていて手がかからず、大変な思いをしたという記憶はありません。

しずかさんのところに来て間もない頃のめーちゃん。生後約3ヶ月の頃。

一緒に飼い始めたパートナーとは途中でお別れしてしまいましたが、めーちゃんは10歳を過ぎても大きな病気をすることなく、元気な子でした。でも、約2年半前のこと。12歳になっていためーちゃんの鼻息がひどくなりました。風邪か鼻炎かと思い、かかりつけの病院に行きました。通院しても症状がなかなかよくならなかったため、大きな病院での検査を勧められました。CT検査には全身麻酔が必要ということもあって怖かったのですが、何かあっても怖いと思い、検査を受ける決断をしました。

大きな病院でレントゲンとCT検査を受けたところ、鼻の奥で脳にも近い場所に腫瘍が見つかりました。組織検査でガンということが明らかになったのです。獣医師から提示されたのは、動物の高度医療を行う病院での放射線治療と抗がん剤治療です。放射線治療は何回かに分けて行い、毎回全身麻酔をかけて、腫瘍部分に放射線を照射します。効果が現れるかどうかはやってみなくてはわかりませんが、もし効けば、半年くらいはいい状態が続くということでした。一方の抗がん剤治療は、効果が出づらいと言われました。

呼吸が苦しかったのもあり、口を開けて寝ているめーちゃん。

この頃のめーちゃんは鼻から呼吸がしづらくて口で呼吸をしていました。猫は本来、口呼吸ではありません。苦しさから夜も眠れず、めーちゃんも私も睡眠不足の毎日が続きました。食欲も落ちたため、5kgくらいあった体重も2kg近く減ってしまいました。なんとか自力で食べてもらいたくてご飯を工夫してみてもちっとも食べてくれず、その度に自分の無力さを感じて泣きました。

12歳という年齢を考えると、めーちゃんに負担をかけてまで治療すべきかものすごく悩みました。それに高額な治療費もかかります。ちょうどこの頃、新型コロナウイルスが感染拡大しはじめ、私のお店も休業を余儀なくされました。自分の仕事の先行きもわからない状態だったため、毎日が不安でいっぱいでした。猫を飼っている友達にも相談をしましたが、めーちゃんの飼い主は私ひとりなのだから、最終的には全て私がひとりで決断しなくてはなりません。それは本当に辛かったです。

少しでもよくなる可能性に賭けたいものの、それは飼い主のエゴなのではないかという思いもあり……。でも、医師に、「12歳だけど体力はまだあるのでがんばってくれるんじゃないか?」と言われ、私もできることがあるなら何でもしたいという気持ちがありました。そこで、放射線治療を始める決断をしたのです。

 
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