昨今のコミックのトレンドに「芸能界もの」がありますが、その中でも『ロア ~奈落のヒロイン~』は、ドラマ化されたドロドロの愛憎サスペンス『ギルティ~鳴かぬ蛍が身を焦がす~』の作者の最新作だけあって、ドラマチックだけれど地に足のついたリアリティ度と、先の読めなさ度ではダントツです。

はじまりの舞台は2010年、瀬戸内の離島で育った美佐都は優しい両親と共に暮らしていました。二つ年上の友達・純也がいじめられているのを習いごとの空手で守るような強気な女の子で、歌がとても上手でした。

 

ある日、ドラマの撮影班がロケをしにやってきた時、美佐都はプロデューサーにその場で見込まれ、エキストラの子役として才能の片鱗を見せます。

 

そのドラマが放映されると、純也をいじめていた子たちから、自分が「もらわれっ子」だと噂が立っていると聞かされた彼女は、その真偽を母親に聞いてみますが強く怒られてしまいます。ショックを受けた美佐都は家に帰りたくないと、純也の家に泊めてもらうことに。
するとその晩、美佐都の自宅が火事になり、家は全焼、両親は亡くなってしまいます⋯⋯。そこから彼女の人生が変わってゆきます。

天涯孤独になった美佐都を引き取りにきたのは、東京に住む東條家の妻・真由花。

東條家は父親が医者で、母親の真由花は最初は優しいように見えて、徐々に娘の彩音とともに美佐都をいびるようになりました。そして、家族の輪から外されるように地下の部屋で過ごしていた息子の好樹。彼は歩けないので一人で家から出ることができませんでした。
この家から出たいのに出られない。彼の存在が、孤独な美佐都のたった一人の光になったのでした。二人はお手伝いの女性・増さんに世話をされ、小学校にも通えず、美佐都は外の世界をほとんど知らないまま10年を過ごし、時は2021年に。

 


美佐都の才能はいつ花開くのか?


美佐都は歌が上手いだけでなく、本の内容をすぐに丸暗記できるし、家族のしゃべり方を完全にコピーできる”憑依系”のようです。でもそれだけでなく、彼女の真骨頂は、「ロア」。タイトルの「ロア(Roar)」とは、わめく、怒鳴る、大声を立てる、泣き叫ぶなどの意味があります。

 

感情をぶわっと爆発させる演技をさせたら最高な役者になるのだろうという予想がつきます。それは彼女の生い立ちからくるものなのか、天賦の才なのか?
そして、気になるポイントは、「あの子はロアだ」と芸能プロダクションの男性が彼女を見て呟くシーン。単語の本来の意味だけでなく、何かの代名詞のようにも思えます。

 


東條家は全部で何人なのか?ナゾの家族構成


次に、美佐都にとっての「奈落」である東條家は、奇妙な家族構成であることがわかります。父親と母親、娘は食卓を共にするのに対し、息子の好樹は歩けないとはいえ、どうして地下に閉じ込めてしまっているのかわからないんですよね。母親は父親と一緒に働いていた元看護師っぽいな? というところまではわかるのですが、当時の回想シーンとではキャラが変わっている気もするし⋯⋯とナゾ多き家族なのです。

 


最大のナゾは、主人公・美佐都の出生


もっとわからないのは主人公・美佐都の出生についてです。四国の離島で彼女を育ててくれた母親はいじめっ子たちのウワサ通りに産みの母ではなさそうで、産みの母は未成年の少女? で、本来ならば殺されるはずの命だったということがほのめかされています。それ以外の情報が少なくて、予想がつきにくい。冒頭の「彼女が生かされた意味」とは?

 


本作のテーマは「奈落に落とされてもなぜ生かされているのか」なのでしょう。

ちなみに、作者の丘上あいさんは、お母様と妹さんがなんと女優さんなのだとか。


「女優の母と妹をもつ自分が、漫画家として一度どうしても挑戦したかったジャンルに挑みます。初めての世界を描くので緊張していますが楽しんで描きたいと思います。」
PR TIMES「累計290万部『ギルティ 〜鳴かぬ蛍が身を焦がす〜』の丘上あい、待望の新連載『ロア 〜奈落のヒロイン〜』5月30日(火)配信スタート!!」より引用
 


1巻では伏線がたくさん張り巡らされているのだろうなと感じますが、そのほとんどは明かされずまだ序章といった感じ。主人公が本格的に芸能界入りする2巻以降では、女優という職業についた家族を間近で見てきた丘上さんならではのリアルな描写が光る展開になるに違いありません⋯⋯!

 


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<作品紹介>
『ロア ~奈落のヒロイン~』
丘上あい (著)

累計300万部(2023年12月時点)突破、TVドラマ化もされた『ギルティ』丘上あいの最新作! 瀬戸内の島で、愛情あふれる両親のもと健やかに育つ少女・美佐都(みさと)。だが、あるドラマにエキストラとして出演したことが、彼女の運命を一変させる。栄光、誘惑、秘密、そして罠――華やかな芸能界を舞台に、復讐のみを糧に生き抜く少女の物語が、いま幕を開ける。

作者プロフィール 

丘上あい
代表作に『やさしい子供のつくりかた』『ギルティ ~鳴かぬ蛍が身を焦がす~』『赤ちゃんのホスト』(いずれも講談社)など。現在、まんが王国とPalcyにて『ロア ~奈落のヒロイン~』を先行配信中。
X(旧Twitter)アカウント:@okaueai


構成/大槻由実子
編集/坂口彩