Z世代一括りはナンセンス。劇的に変わったのは「若者」ではない

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——今回の新著に「人材育成にZ世代は存在しない」という言葉があります。古屋さんの主張は一貫して、基本的に世代が違っても人間のマインドに大きな違いはない。「労働環境や法律が変わったんだ」ということですよね。

古屋:僕は「Z世代がこうだ」という意見に真っ向から反対しています。個人の感覚を平均値で捉えられないですし、一人ひとり全然違う。過去に若手だった30〜40代と比べて、今の若者が何かすごくマインドセットで違いがあるかっていうとそうじゃない。マインドセットを変える、意識を変えるってみんなよく言いますけど、そんなの不可能というか、一番難しいところだと思うんです。じゃあ、何が人に影響を及ぼすかといったら、「環境」じゃないですか。

キャリアの話は、その多くが「環境」の話だと思っているんです。今と昔で唯一違うのは「労働環境」ですよね。長時間労働が取り締まられるようになり、労働法が劇的に変わった。「発言力の弱い若者を使い潰す会社は許さない」という法改正ですから、間違いなくいい変化です。その結果として、今までやってきた育て方が全く通用しなくなっています

 


「新人類世代」も同じだった「残業しない、飲み会に来ない、人付き合いが嫌い」

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——ハラスメントを許さなくなり、ワークライフバランスを守ろうという風潮が浸透してきたのも、世代論というより「時代観」ですよね。本書で紹介されている10代、30代と40代への意識調査でも、「プライベート重視」に年齢は関係ない、「仕事に対する考えがストイック」なのはむしろ10代、という結果が興味深いです。「とにかく会社より自分!」みたいな若者は、作られた若者像なのかなと感じます。若者は「人付き合いや飲み会が嫌い」「リモートワークじゃないと嫌!」とも言われますが、若者の総意みたいに言われるとすごく違和感があります。「だるい人付き合い」が嫌なのであって、人と関係性を結ぶことは本来的に人間のベーシックニーズですし。

古屋:人付き合いや飲み会が嫌いな人も、「そういう人もいる」っていうだけの話ですよね。印象論にすぎない部分があります。若者と話してみると、「いや、飲み会めっちゃ好きです。なんなら企画しましょうか」という人もいます。それに、「若者は飲み会が嫌い」というのは、僕が若者だった頃、つまり15年ぐらい前からずっと言われている。もっと言うと、今の50代が若者の頃にも言われていました。

今の50代は「新人類世代」と言われていたんです。「新人類」という言葉が生まれた当時の記事では、「彼らは残業しない、飲み会に来ない、人付き合いが嫌い」と書かれているんです。

——今の50代が若者に言っていることとまるで同じじゃないですか!

古屋:今まさに経営層や管理職の50代の方々も、若いときに「今どきの若いもんは」と散々言われている。めちゃくちゃ叩かれた世代なんですよ。「新人類」は今に繋がる若者論の骨子でもあるし、若者論の元祖ともいえます。

それでもやっぱり、中高年の方にとっては、「若者はこうだ」と括る方がわかりやすい。“自分と違うもの”として理解した方が“気持ちいい”からですよね。でも、若者を“自分と違うもの”として切り分けても、人材育成はうまくいきません