「同一労働同一賃金」が中流復活の鍵…オランダの事例

 

では、“中流復活”のためにできることはあるのでしょうか。本書では企業取材や海外の事例も取り上げながら、中流復活のための処方箋として大きく3つの柱を提示しています。それが、①デジタルイノベーション、②リスキリング、③同一労働同一賃金です。

中でも印象的だったのが「同一労働同一賃金 オランダパートタイム経済に学ぶ」という章。ここではオランダで徹底される「同一労働同一賃金」への取り組みを具体的に紹介しています。

そもそも、日本における非正規雇用の拡大について、本書では次ように解説。「非正規雇用の拡大は、最初から人件費削減のみを目的にしたものではなかった。規制緩和によって、硬直化した日本の労働市場を流動化させて、転職や新規就業を拡大し、副次的に賃金を高める効果も期待されていたのである。しかしながら、現実にはそのような積極的な効果はほとんど生まれず、ひたすら、賃金を抑制する方向に働いてしまった」。

 

最後の一文は、非正規雇用で働く多くの人が実感するところかもしれません。しかし本書では、非正規雇用の拡大は日本だけが先行して行ったものではなく、世界的潮流であったことも補足。その視点も踏まえ、オランダの次のような事例を取り上げています。


オランダの首都・アムステルダム郊外でパートタイマーの警察官として働くエファナーさん。彼女はシングルマザーとして11歳の子どもを育てており、子育てのため、一日9時間、週に平均3日程度という働き方をしている。日本であれば、厳しい生活を想像するかもしれないが、彼女はこの働き方で2500ユーロ(約35万円)の月収を得ている。

驚くべきことに、彼女だけがこのような高待遇を受けているわけではない。オランダでは、「同一労働同一賃金」が徹底されており、フルタイム労働者であろうとパートタイム労働者であろうと時間あたりの給料や福利厚生がまったく同じで、日本のようにパートタイマー=非正規労働者、ではないのだ。つまり働く時間 が短くても正規雇用労働者であり、短時間労働を選択しても十分に暮らせる仕組みになっているのだ。
——『中流危機』より

こうした働き方が社会に定着してなお、オランダの国民一人当たりのGDP(国内総生産)は日本の1.4倍に上るといいます。