この音声はのちに、編集によって捏造されたものだとテイラー自身によって証明されているのですが、このときのことを彼女は「私は王冠を授けられたのちに奪われた」と表現。1年間引きこもっていた間はひたすら曲を書いていたといいます。このとき出来たのが、6枚目のアルバム『レピュテーション』。以前「いい子を目指していたテイラーがひと皮向けて女性たちのヒーローになるまで」という記事を書いたのですが、このアルバムでさらにテイラーは吹っ切れます。

そもそもアルバムタイトル自体が『レピュテーション(評判)』と、カニエの一件で評判が地に堕ちた自分を嘲笑うようなタイトル。収録曲の『Delicate』では「私の評判がかつてないほど悪くなってるこのタイミングで恋に落ちるのはベストだとは言えないわよね」と自虐してみせ、『Look What You Made Me Do』は「あなたが私に演じさせた馬鹿な役が気に入らない、あなたが私にさせたことを見てよ」と、完全にカニエを連想させる内容。さらには「私は誰も信じないし誰も私も信じない」と心境を語った上に、「昔のテイラーは電話に出られません。なぜって彼女は死んだからよ」と言ってのける。強い……! 

心は確実に傷ついていても、それを曲にして昇華させるプロ根性。そして、カニエとの「悪縁」を逆手に取り、匂わせるような曲を作って話題作りに利用してしまえるしたたかさ。こんな風に自らの物語を曲に紡いできたテイラー。だからこそ、そのリアルな歌詞にアメリカの女性たちは共感するのですね。

けれど今までのテイラーにしてはかなり強めの曲調だったこのアルバムは2017年のリリース当時の評価は賛否両論。そこで「じゃあもっといいアルバムを作るね」と、2019年に『ラバー』、2020年に『フォークロア』『エヴァーモア』と、次々に新作を発表。こうした過程を経て生まれたのが、今回の『ミッドナイツ』なのです。

 


というわけで、ファンとの約束を有言実行するテイラーのすごさ、わかっていただけましたでしょうか。

左から)「ボーイジーニアス」として3部門を受賞したフィービー・ブリジャーズ、ジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダッカス、テイラー・スウィフト、『ミッドナイツ』などを手がけた功績から年間プロデューサー賞を獲得したジャック・アントノフ。写真:REX/アフロ

ほかにもテイラーは、音楽プロデューサーのスクーター・ブラウンに、当時の所属レーベルを買収されるという形で自分のアルバムの版権を奪われてしまい、ライブでパフォーマンスする権利も失うという壮絶な裏切りにも遭っています。が、こちらも「一定の期間経過後にアルバムを再レコーディングすればその版権は自分が持てる」というルールに則り、昨年からアルバム6枚分を再レコーディング中。

普通なら心折れてしまいそうな場面でも、決してあきらめないテイラー。そんな経緯をリアルタイムで観てきたファンたちにとって、彼女は真のヒーローなのですが、アルバム『ミッドナイツ』の私が大好きな曲「アンチ・ヒーロー」ではこんな内容の歌詞を書いています。

「アンチ・ヒーローと繋がっているのはさぞかし疲れることでしょうね ハーイ 私よ 私が問題 それは私のせい 誰もが賛成するわ」。アンチ・ヒーローとはもちろん、ヘイターたちに叩かれがちな自分のことです。

自らの影を織り込んだアルバム『ミッドナイツ』で史上初の4回獲得を果たしたテイラー、本当におめでとう!
 

 

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