サーフィンと海の町が教えてくれたこと

写真:Shutterstock

自分の人生をサーフィンによって取り戻していったダイアンさんは、新たなパートナーとのときめきを楽しんでいる様子も本書に綴っています。ダイアンさんを変えたサーフィン、そしてロッカウェイという町について伝えた次の文章は、ことさら印象的でした。
 


この町ではたくさんの人が暮らしを自分の幸せに合わせて組み立てている。わたしが仕事や用事の合い間にささやかな幸せを押し込もうとするのではなくサーフィンに合わせて月の予定を組み立てているように。ものごとを自然な流れにまかせてみたかった。わたしは水平線のかなたを見るのをやめて、身のまわりに意識を向け、そこから得られるものを受けとり、その瞬間のエネルギーを取りこみ、そこにとどまってライドを楽しむことを学びつつあった。
 


趣味のつもりで始めたこと、息抜きのつもりで訪れた場所が人生の中心になり、“わたし”を支える糧になることもある。そんなことを教えてくれる本書。自分にはできない、こんなの無理、馬鹿げている——そうした負の感情から一歩を踏み出してリスタートを切ったダイアンさんの日々は、今も青い波と共にあります。

ちなみに本書では、40代半ばからサーフィンを始めたダイアンさんが、悪戦苦闘しながらも波に乗る手応えを掴んでいく様子はもちろん、実際にどんなトレーニングを行なっていたか、サーフィンの用語やルール、歴史についても記されています。「サーフィン、ちょっとやってみたいかも」という方は、本書でダイアンさんの“追体験”から始めてみるのもいいかもしれません。

 

著者プロフィール
Diane Cardwell(ダイアン・カードウェル)さん

ジャーナリスト。ニューヨーク・タイムズ紙の元記者で、9.11同時多発テロで亡くなった人々についての特集記事『Portraits of Grief』の初代ライターのひとり。ニューヨークのロッカウェイ・ビーチに住み、ガーデニングとサーフィンを楽しむ日々を送っている。

訳者プロフィール
満園真木(みつぞの・まき)さん

翻訳家。青山学院大学卒業。主な訳書に『アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』、『死体は噓をつかない 全米トップ検死医が語る死と真実』(ともに東京創元社)、『生きるための選択 少女は13 歳のとき、脱北することを決意して川を渡った』(辰巳出版)などがある。

 
 

『海に呼ばれて ロッカウェイで“わたし”を生きる』
著者:ダイアン・カードウェル 翻訳:満園 真木 &books/辰巳出版 1760円(税込)

子供をもつ将来を思い描いていた著者が、40代にして離婚。喪失感を手放すことができないでいた著者を救ったのは、サーフィンとの思いがけない出合いでした。ジャーナリストでもあるひとりの女性が、アメリカ・ニューヨークの南端にある半島「ロッカウェイ」で、仲間たちとサーフィンを通じ、人生を再起動させるノンフィクション。自分自身を縛っていた心の中の鎖を外し、ありふれた日常の中にささやかな幸せと確固たる居場所を見出していく、ミドル世代に贈る自分探しの物語。


構成/金澤英恵