「あまり受けないだろう」と思っていたら?


せつなが所属する家事代行サービス会社の名前であり、本作のタイトルでもある「カフネ」というのは、ポルトガル語で、「愛する人の髪にそっと指を通すしぐさ」という意味。人の温もりや、誰かが自分を思ってくれる気持ち、その人のために何かをしたいという気持ちがじんわりと伝わってきて、その思いが、また明日も生きる小さな希望を与えてくれるようです。

さまざまな作品を世に送り出し、ファンを増やしている阿部さんにとって、本作は「あまり受けないだろう」と思っていたそう。ところが、蓋を開けると読者の共感を呼び、とても驚いたと話します。

「この作品は、私の個人的な思いや考えを結構盛り込んでいたこともあって、そんなに受けないと思っていました。でも、いろんな人が共感した、せつなや薫子、その他の登場人物に感情移入した、と言ってくださり、意外の連続。みなさんの感想や共感ポイントを聞いていて、世の中の人たちって、そんなことを感じていたのか、と逆に教えてもらった感じで、とても不思議な気持ちでいます」

おいしいと思えるだけでうれしい。心にそっと寄り添う物語。小説『カフネ』阿部暁子さんインタビュー_img3
漫画『ちはやふる』作者の末次由紀さん描き下ろしのイラストと、感想コメント。

登場人物たちのスピンオフ短編小説も執筆する予定でしたが、「短編を生み出す前に、先に子を産んでしまった」という阿部さんは、いまは育児に向き合う多忙な毎日を過ごしています。

「赤子を抱えながらAudibleを聴くのが精一杯な状態ですが、そろそろ書きたいという気持ちが芽生えてきました」

阿部さん自身が育児の渦中にいて余裕がないように、世の中の一人ひとりがいつも何かに追い立てられ、多忙な生活を送っているのが現状です。そんな中、自分が書いた小説の登場人物が語った言葉や、そこで描かれたことが誰かの頭の片隅に残り、何かの時に無意識にでも役に立てばこんなにうれしいことはない、という阿部さん。

「みんな十分体を張って、頭を悩ませて、一生懸命頑張ってると思うんです。だから、時には栄養なんか無視して、好きなものを食べ、ぐっすり寝る! 私は体からのアプローチは結構有効だと思っているので、たまには“薄皮パン祭り”でもやって、楽しんでみてください!」
 

 
おいしいと思えるだけでうれしい。心にそっと寄り添う物語。小説『カフネ』阿部暁子さんインタビュー_img4
 

『カフネ』(講談社)
阿部暁子
1870円(税込)

法務局に勤める野宮薫子は、溺愛していた弟が急死して悲嘆にくれていた。弟が遺した遺言書から弟の元恋人・小野寺せつなに会い、やがて彼女が勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝うことに。弟を亡くした薫子と弟の元恋人せつな。食べることを通じて、二人の距離は次第に縮まっていく。

志真てら子先生描き下ろしの「カフネ」紹介マンガ
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編集・取材・文/吉川明子
 
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