『偽装不倫』テレビドラマ化を記念して、東村アキコ作品をお届けする第二弾は『主に泣いてます』。こちらも笑い7割、切なさ3割の東村ワールドが炸裂している作品。絶世の美女がゆえに非モテ道を極めようとする主人公が魅力的です。

物語の舞台は東京・墨田区向島。主人公の紺野泉は、出会った誰もが一目惚れし恋に落ちてしまうほどの絶世の美女。面接に行った先ではデートを迫られ、宅配便の配達の方はストーキングされ、アルバイト先では全ての男性が虜になりお店の前に救急車が何台も必要なほどの争いが起きる。それほどの美女なのに、好きな人とは不倫の関係にしかなれない。唯一の望みは「好きな人のそばにいること」。休日にしていることは「主に泣いてます」。

私のように、あーあ…もっと美人に生まれてきたら人生楽勝だったのかなー思う人間にとって、美人だから不幸になるというのは衝撃的な設定。今どきの美女って、その美貌を武器にして仕事をしたりSNSで発信したりと、承認欲求が満たされている人が多い中で、主人公の泉はでしゃばったところがなく常に控えめで謙虚。泉が泣くのは、自分の幸せが叶えられない涙ではなく、自分の周りにいる人が不幸になるのが悲しいから。東村先生の描く美しく悲しげな表情の泉にはカタルシスがあり、泉さんが幸せになれますよう…と応援せずにはいられないほどです。

さて、こんな儚げで美しい泉を登場させながら、シュールな笑いでテンポよく読めるのもこの作品の魅力一つ。男性から一目惚れされないように、カルト集団を装ってみたり、プロレスラーの武藤敬司に変装させたり、泰葉の「フライデー・チャイナタウン」を歌わせたり(笑)。すきま家具のようにそこをついてくるかー!!!という細かいギャグは、もうもうやめてー勘弁してー!と悶えるほど。美しい泉が真面目に笑いに取り組んでいることで、この作品のエンターテインメント性がぐっと高くなっています。

「生まれ変わったら ブスになりたい 明るくて 面白くて 誰からも愛される 素敵なブスに」。一話目の冒頭に出てくる泉の心の声。でも、読後にわかります。泉みたいな、明るくて面白くて誰からも愛される素敵な美人こそが最強だと。

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『主に泣いてます(1)』 (モーニングコミックス)

著者 東村 アキコ 講談社

あまりの美貌がゆえに薄幸人生を生きる美人絵画モデル・紺野泉。彼女の望みは「ただ好きな人のそばにいること」。不幸を約束された絶世美女が、幸せを求めて非モテ道を突き進む。今まで誰も描かなかった不幸美女の苦悩と抵抗を描く痛快笑劇作品。