「ドラマでキスシーンに“本当にしてはいないでしょうね?”と詰め寄り、濡れ場のある作品への出演に対し“絶対に許さない!ご近所にどんな目で見られるか!”と激昂する場面は、デジャブかと(笑)。私も『赤目四十八瀧心中未遂』に出演すると言ったときに、母に猛反対されたので。従順で穏やかな弟と違って、私は母の言うことを聞かずに生きてきたところがあります。今になればわかるんです。母には到底及びませんが、私も息子が悪く言われるのが嫌で、“なんかマジメなこと言っちゃってるなあ”と思いながら、常識を言い聞かせることがあります。私は意識したことがないんですが、夫からはよく言われるんです。“しのぶにとってお母さんは絶対だよね。反発していても、結局はお母さんの言うとおりにしてる”って」

寺島さんの母娘関係とは異なり、佳香と弓香の関係はどんどんとこじれてゆきます。佳香が繰り出す「娘に良かれ」と思ってとった行動は、すべてにおいて裏目に出て、それまで母親に決して反抗してこなかった娘を、完全な「毒娘」に変えてしまいます。

「撮影初日に、監督に“すごい難しい”と言ったのを覚えています――読むだけではどう考えても佳香が悪いように映ってしまうんですよね。だからどこかで一瞬でも“佳香の気持ちも分かる”という部分を強く出さないといけないな、と。でも実際に演じてみたら、“なるほどな”と思えてくるんです。過剰すぎるし、方向性も間違っている。でもその愛情に嘘はないし、無限なんだなと。佳香がある振り切った行動に出る場面では、脚本を読んだ時は“こんなふうになるかなあ?”と思っていたのですが、“娘を傷つけたらただじゃ置かない”という母親の本能的な思いがグッと出てきて。演じている自分が自分でないような感じがして驚きました」

 

 

お母さんたちは、ひとりで子育てを頑張りすぎている


佳香のボタンの掛け違えは、どこから始まったのでしょうか。そう尋ねると、これは個人的な意見ですが――と前置きして、寺島さんは答えます。

「若くして夫を亡くしたことは、原因のひとつだったのかもしれないですよね。ひとりで子供を育てなければいけない、母親がその時に感じるプレッシャーたるや、すごいものがあったと思います。佳香は真面目で、“こうあるべき”というのを持っている人。亡くなった夫は教師ですし、佳香以上に“こうあるべき”というのがあった、厳しい人だったのかもしれません。それが亡くなってしまったことで、佳香は父親の分もちゃんとしなければと、どんどん厳しく束縛する方向にいってしまったんじゃないでしょうか」
真面目な人であればあるほど、そういうところにハマりこんでしまい、「こうあるべき」と思えば思うほど、逃げ場を失ってしまう。一人きりで子育てをするお母さんたちは、そんな袋小路に追い詰められているのかもしれません。

「なんでこんなに一人で頑張ってるの?と思いながら演じていました。でも“モンスターペアレンツ”とか“毒母”の話もよく聞く今の時代、一人で頑張りすぎている人が多いのかもしれませんね」
 

<ドラマ紹介>
「連続ドラマW 湊かなえ ポイズンドーター・ホーリーマザー」

 

7月6日スタート 毎週土曜よる10時(全6話)※第1話無料放送

人気作家・湊かなえが、母と娘の関係を軸にしながら人間の情念をえぐるように描き、第155回直木賞候補作ともなった短編集を連続ドラマ化。全6話の各話の“ポイズン(毒)”を抱えた女性たちが登場する。

<スタッフ/キャスト>
原作:湊かなえ(『ポイズンドーター・ホーリーマザー』光文社文庫刊)
出演:寺島しのぶ/足立梨花/清原果耶/中村ゆり/倉科カナ/伊藤歩

監督:𠮷田康弘(「連続ドラマW プラージュ ~訳ありばかりのシェアハウス~」『かぞくいろ』)
   滝本憲吾(「鈴木先生」「女はそれを許さない」)
脚本:清水友佳子(「リバース」「夜行観覧車」「わたし、定時で帰ります」)
   吉川菜美(『PとJK』『純平、考え直せ』)
   藤澤浩和(「チア☆ドル」「FOREVER14」※第1回WOWOW新人シナリオ大賞優秀賞)
音楽:きだしゅんすけ
プロデューサー:井上衛
          澤岳司
制作協力:デジタル・フロンティア
製作著作:WOWOW

【番組特設サイト】 http://www.wowow.co.jp/dramaw/poison/

 

 

<原作紹介>

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』
湊かなえ(光文社文庫) ¥600(税抜)
 

女優の弓香の元に、かつての同級生・理穂から届いた故郷での同窓会の誘い。欠席を表明したのは、今も変わらず抑圧的な母親に会いたくなかったからだ。
だが、理穂とメールで連絡を取るうちに思いがけぬ訃報を聞き……。(「ポイズンドーター」)
母と娘、姉と妹、友だち、男と女。善意と正しさの掛け違いが、眼前の光景を鮮やかに反転させる。名手のエッセンスが全編に満ちた極上の傑作集!

 撮影/塚田亮平
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)
 
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