「辛いときだからこそ見えるものがある」なんて言葉は、本当に辛い人には届きません。だから今この瞬間、まぁたさんに見えているものを見てほしいと思うのです。感じてみる、書き出してみる……、どういう方法でもかまいません。私も夫を亡くしたとき、寝ても覚めてもずっと辛い、と思っていました。でも実感したのです。時間はずっと続いているものではなく、一瞬一瞬の連なりだと。
たとえば息を吸うことに集中したその瞬間は、「辛いだけ」の時間ではありません。息を吸ったり吐いたり……、夫が死んでどんなに辛くても、それとは無関係に私たちは呼吸しているのです。ですからほんの一瞬でもいい、お茶を飲んだり、何かに触れたり、見たりすることに意識を向けてみるのです。延々に続くと思っている辛さと辛さの間に、そんな時間を一瞬でも作り、その時間を少しずつ拡げていく、という感じでしょうか。
まぁたさんはこれから入院をされることもあり、ベッドの上で過ごす時間も増えるかもしれません。でも、だからこそ五感を澄まして、自分が感じられるものを丁寧に感じ取ってみてはいかがでしょう? 人は体が傷んでいるときほど、心は敏感になるものではないかと思います。夫も「世の中は奇跡に満ちている」と言っていました。私自身もそう感じています。夫が亡くなる1ヶ月前くらいのことですが、私たちはテーブルを挟んで向かい合って座り、それぞれパソコンで音楽を聴いていたのですね。その瞬間、私は「この時間は奇跡だな」と思ったのです。ありふれた日常の時間だったけれど、それはいつか必ず失われる。もっと言えば、夫がもっと前に死んでいたらなかったかもしれない時間だ、とも。そのことが心の底から分かったから、今この瞬間がかけがえのない奇跡のような時間なんだ、と痛感したのです……。
まぁたさんは死別を経験されました。そして今、今度は自分の命と真正面から向き合う機会を得ています。だからこそ、生き死にに関わる何かに気づける大切なチャンスを得ていると言えるのかもしれません。どうか一つ一つのことを丁寧に味わいながらなさってください。聴こえなかった音が聴こえてくるかもしれません。見えなかった何かが見えてくるかもしれません。それは自分の可能性と言いますか、変化と言いますか……。それでも言葉が明るすぎますね。すみません、上手く言い表せる言葉が私自身もまだ見つかっていないのですが……。でも、自分の人生を信じてほしいし、自分が意識していない力を感じてほしい、と私は思っています。
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- 金子稚子(かねこわかこ)1967年生まれ。終活ジャーナリスト。終活ナビゲーター。一般社団法人日本医療コーディネーター協会顧問。雑誌、書籍の編集者、広告制作ディレクターの経験を生かし、死の前後に関わるあらゆる情報提供やサポートをおこなう「ライフ・ターミナル・ネットワーク」という活動を創設、代表を務めている。また、医療関係や宗教関係、葬儀関係、生命保険などの各種団体・企業や一般向けにも研修や講演活動もおこなっている。2012年に他界した流通ジャーナリストの金子哲雄氏の妻であり、著書に『金子哲雄の妻の生き方~夫を看取った500日』(小学館文庫)、『死後のプロデュース』(PHP新書)、『アクティブ・エンディング 大人の「終活」新作法』(河出書房新社)など。編集・執筆協力に『大人のおしゃれ手帖特別編集 親の看取り』(宝島社)がある。 この人の回答一覧を見る
- 山本 奈緒子1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『FRaU』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。 この人の回答一覧を見る
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