「きくちちき」という作家をご存じでしょうか。
2012年のデビュー作『しろねこくろねこ』が、「ブラスティヴァ世界絵本原画展(BIB)」で「金のりんご賞」を受賞、一躍注目をあびました。
ブラスティヴァ世界絵本原画展は、世界最大規模の絵本原画コンクール。芸術性が高く、実験的な作品が集まることで知られていますが、きくちさんの作品は、まさにその高い芸術性と、ユニークさが特徴です。
美しいアートワークに魅了されるファンも多く、ふだん絵本になじみのない大人にこそ知ってほしい、気鋭の絵本作家なのです。
デビュー作『しろねこくろねこ』にはじまり、これまで発表された作品はどれも、自由奔放な絵が画面いっぱいに広がり、生きる喜びと自然への賛美に満ち満ちています。
しかし、その、どこまでものびやかに、心赴くまま描かれたように見える作風の背後には、数知れない試行錯誤があるそう。
きくちさんは、ひとつの場面を何十枚、1冊の絵本をつくるために数百枚もの原画を描きます。生命力あふれるのびやかな描線と色使いは、数えきれないほど推敲を重ねた結果の、洗練された自由さなのです。
デザイナーから絵本作家へ 1冊の出会いが人生を変える
大学で建築を学んだ後、グラフィックデザインの道へ進んだきくちさん。彼が絵本製作をはじめたのは、骨董市で手に入れたある一冊の本がきっかけだったそうです。
リトグラフの手法を用いたこの絵本に強く惹かれたきくちさんは、自らも「絵本を作りたい」という強い衝動に突き動かされ、手製本で作品を発表しはじめます。きくちさんの絵本は、たちまち編集者の間で話題となり、作家として本格的に活動をはじめることとなりました。
ねこといぬ、出会いの喜びを描いた新作
鮮烈なデビュー作となった『しろねこくろねこ』から7年。
きくちさんの作家活動における、ひとつの到達点となる『しろとくろ』が、この秋、上梓されました。
繊細な猫・しろの世界は「なんで」という疑問と感嘆にあふれています。
草や花、小さな生きものたち、そして犬のくろとの突然の出会い。
そのすべてに「なんで なんで」と新鮮な驚きを感じ、喜びをあふれさせるしろ。
そして、夜になって、くろと別れたあとは、
「なんで さみしいの」「なんで ねむれないの」
と、はじめて抱いた感情にとまどいながら、やがて朝をむかえます。
シンプルな言葉で表現される、心の動き、そして、自由闊達な描線と鮮やかな色彩。
発見の喜び、出会いの喜び、そして、他者を想う喜びを、高らかに歌い上げるようで、ページをめくるたびに瑞々しい感情が胸を満たす1冊です。
原画展で出会える「くろ」の物語
『しろとくろ』には、対となる絵本作品『くろ』が存在します。
『くろ』はタイトルの通り、犬のくろが主人公。
しろと出会った日の夜の、くろを描いた作品です。
夜、ひとりになったくろは、しろと出会った喜びを体中でかみしめます。
嬉しさに身を躍らせて、「あいたいな あえるかな」と明日を願うくろの感情は、きっと誰もが共感できるはず。
きくちさんにとって、この2作は「ふたつでひとつの物語」。
「ぼくにとっては、どちらが欠けてもだめなんです。」
「『くろ』を描き終えたとき、ようやく完成したのだと実感しました。」
とコメントしています。
この『しろとくろ』と『くろ』に出会える原画展が、今週末より東京・吉祥寺で開催。
会場では、原画が初公開され、図録にも収録されます。
きくちちき 絵本展 しろとくろ
2019 年9月21 日(土)~ 11 月10 日(日)
武蔵野市立吉祥寺美術館
きくちちきの「これまで」を振り返り、「これから」を提示する企画展。新作絵本『しろとくろ』と、展覧会図録のために描かれた『くろ』の原画を中心に、これまでの絵本原画が一挙公開。
この秋は、きくちちきさんの瑞々しい感性が息づく作品を、
絵本で、そして原画展で、楽しんでみてはいかがでしょう。
▼関連情報▼
原画展を記念して「グラニフ」とのコラボTシャツが登場。
9月25日(水)より全国の店舗&オンラインストアで発売するほか、原画展会場となる武蔵野市立吉祥寺美術館ミュージアムショップでは展覧会初日の9月21日(土)から先行販売の予定。
試し読みをぜひチェック!
▼横にスワイプしてください(実際の絵本は右開きです)▼
きくちちき:1975 年北海道生まれ。絵本作家。グラフィックデザイナーを経て、2008年から手製絵本を作り始める。個展で発表した絵本が評判を呼び、2012年に『しろねこくろねこ』(学研プラス)で作家デビュー。同作で、2013 年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)金のりんご賞を受賞。ほかに、『ちきばんにゃー』、『やまねこのおはなし』(作・どいかや)、『ねこのそら』、『ゆき』、『ぼくだよ ぼくだよ』など作品多数。
【きくちちき◎菊地知己 Chiki Kikuchi】
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