このままではブームに終わる。ターゲットを絞り込まない大胆な戦略に出る


石川:F1層だけをターゲットにしていたのでは、徐々に売り上げが減少、特にエントリーカスタマーが入りにくくなると見て、全世代ターゲットにマーケティングを路線転換しました。

ーーファッションブランドといえば、雑誌と同様、ターゲットを年齢層を絞り、テイストを絞り、ペルソナ(想定ユーザー)を立ててブランディングを構築するのが一般的。常識を覆す「ターゲットを絞り込まない」戦略を打ち出したアースは、2017年の3月から宮﨑あおいさんに加えて広瀬すずさん、鈴木京香さんと世代の異なる3人を起用した新CMを放映しました。

石川:さらに、都心のファッションビルや駅ビル中心の店舗展開から、郊外型のショッピングモールへの出店も決めました。これもまた社内は大反対で(苦笑)。社員と一緒にショッピングモールを実際に訪れたりして、軒を連ねるショップやお買い物に来ているお客さんを目の当たりにすることで、ようやく納得してもらえましたね。

ーー百貨店はここ5年で地方や郊外店を中心に100店鋪ほど閉店を余儀なくされています。比較的好調と言われていたファッションビルや駅ビルも売り上げが苦戦している中、さらなる変革が求められます

ショッピングバッグを有料化。350億の在庫削減に着手する

「今のファッション業界は、エシカル、エコロジーへの意識の高まりと切り離せません」と語る石川氏。

石川:今年、全世代マーケティングからエシカルという文脈で路線転換を図っています。理念に共感してくださるお客さんをターゲットに、企業としての意志も伝えていきます。

エシカル路線を打ち出す「アース」の新しい動画広告は、広瀬すずさんを起用、映画『万引き家族』等の是枝裕和監督が手がけています。



ーー約20年間で市場規模は3分の2に縮小した一方で、ファッションアイテムの国内供給量は1991年時点で約20億点から、2014年には39億点に膨れ上がっています。ファストファッションの登場以降、アイテムの過剰供給や在庫廃棄の問題、生産過程の透明性は、世界的な課題となっています。

石川:“脱プラ”の流れからプラスチック製ショッピングバッグの供給量を減らすべく、今年5月からショッピングバッグを有料化しました。「アース」を始め、「サマンサ モスモス」など全ブランド約1500店舗で適用し、1枚20円で販売。紙製化も進めています。さらに、今年一番大きな意思決定は、350億円の仕入高削減です。昨年、アースに関してAIを使いながら最適在庫を算出してきました。今年度は全ブランドに適用し、無駄な在庫を減らし、値引き率を抑えることで2ヶ月連続で最高益が続いています。

ーー昨年1年間の実験を経て、生産数を減らして売り上げが下がっても、バーゲンで大幅に値引きして赤字を出すよりも高収益化が見込めると力強く語ります。SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みの一環として廃棄率の低下や、エシカル素材の開発にも積極的に取り組んでいくそう。私たち消費者も、ショッピングバッグありき、セールありきの意識を変えていかなくてはいけません。 

コーポレートメッセージやブランドのメッセージを伝える手法として、「動画」を積極的に活用しているというストライプ社。2019年度のコーポレートメッセージ「いいこと、しようぜ。」

石川:社員にも繰り返し伝えているのは「固定観念を捨てて、路線転換を恐れないこと」。これからも柔軟に思考を動かしながら、作業はAIやテクノロジーにどんどん任せて、みんなにはクリエイティブなことに時間と頭を使ってもらいたいと思っています。我々は今までもビジネスでもDo good、ソーシャルでもDo good、ローカルでもDo goodという考え方でやってきました。さらに、人や社会、地球環境にとって「いいこと」をすることがクールでカッコイイことなんだ、という意識をみんなに持ってもらって、社会へ新しい価値を生み出し続けたいと思っています。

講演の中で、石川社長は「メッセージ」と「繰り返し」という言葉を何度も使っていたのが印象的でした。

ーー「路線の異なる新規事業の全てが収益的に成功しているわけではないが、新しいことをやりやすい土壌ができていることは重要だ」と語る石川氏。新規事業を提案しやすく、運用しやすい環境づくりに加え、営業利益の30%以上を新規事業に充てるというルールも。そこには、アパレル不振を乗り切るという悲壮感はなく、常に新しいことに挑戦していくワクワク感や高揚感が満ち溢れていました。次にどんな新路線が打ち出されるのか、期待が高まります。

撮影・取材・文/川端里恵(編集部)
(この記事は2019年7月8日に掲載されたものです)
 
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