華麗なる一族の家督争いと愛憎劇――、と聞くと昭和の昼ドラに出てきそうないかにもな文句です。「コミックDAYS」で連載中の「オメガ・メガエラ」は、上流階級の一族を中心に、ひと癖もふた癖もある人々が登場し、それぞれの思惑が絡み合うドロドロ劇なのですが、その根底に、BL(ボーイズラブ)ではおなじみの“オメガバース”設定があることで、さらに物語を奥深いものにしています。昭和の薫り漂う世界観が妖しい輝きを放っています。

みなさんは“オメガバース”という言葉を聞いたことはありますか? BLの世界では定番の特殊設定のことです。男女という2つの性とは別に、α(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)という生まれ持った性がある世界。「オメガ・メガエラ」では、この3つの性が次のように描かれています。(すべてのオメガバースがこうではないのですが)αは生まれながらにして優秀な知能と身体能力に恵まれたエリート階級で、全人口の1割しか存在しません。βは最も人口が多くて平凡な一般人。そしてΩは最下層でαやβに虐げられる存在ではあるのですが、Ωにしかない大きな特徴を持っています。それは、定期的に発情期が訪れ、その期間であれば男女ともに妊娠が可能になるというもの。そして、αはΩが発情期に発するフェロモンにはどうしても逆らうことができないという特性もあります。

 

このように「オメガ・メガエラ」は、特殊な社会構造で男も妊娠可能な世界の物語です。でも、「ちょっと複雑そう」という心配はご無用。読んでいるうちにあっという間にその世界観に没入できますので! また、設定はBL定番のものですが、男性同士のほかに女性どうしのカップルも登場して多彩な魅力を放っています。

物語の舞台は、代々αが当主を務める大財閥の英(はなぶさ)一族。Ωでありながら医師免許や博士号を持つ漆間犀門(さいもん・男)は、次期英家当主でαの征十郎と運命的な恋愛を経て結婚したものの、子宝に恵まれませんでした。妻としてのΩの待遇は生んだ子どもの性によって決まるため、αを産めば一生安泰、Ωを産んでもそれなりの地位を保つことができますが、子どもを産めなかったΩは「メガエラ」と呼ばれて忌み嫌われます。征十郎は立場的に必ずαの子孫を残さなくてはならないため、現当主で父の善治郎(α)の強い意向により、犀門のあとに玲鴎(れお・Ω男)と獅乃(しの・Ω女)を妻として迎え入れます。玲鴎はΩの子を二人、獅乃はαの子を二人出産。晴れてαの母となった獅乃が第一夫人として幅を利かせています。メガエラである犀門は、第三夫人に格下げされ、一族の中では肩身の狭い立場に追いやられています。

 

ある日、犀門は善治郎に呼び出されます。今は病で床に臥せっていますが、かつては好色家だった善治郎は、メガエラとなっても征十郎のそばにいたいと願う犀門の弱みにつけ込んで肉体関係を強いていました。善治郎は、かつて没落貴族への融資と引き換えに差し出された13歳のΩの美少女を手篭めにして身ごもらせた話を語りはじめます。まだ幼い少女を孕ませたとなると体裁が悪いからと、その時は少女との縁を断ったものの、もしお腹の中の子どもがαの男性であれば英家で引き取って育てるべきだったと、老い先短い今、後悔しているといいます。

なぜなら、次期当主の征十郎と獅乃の間には一男一女のαがいますが、優秀な長女・麗子は女性であるため、善治郎は跡を継がせることを快く思っていません。一方、弟の伊織は、実はβなのではないかと疑われるほど秀でたところがなく、素行不良です。本当は優秀なαの男性に家督を譲りたい善治郎は、犀門に少女とその子どもの消息を調べさせ、子どもがαであれば英家に迎え入れて征十郎の子どもとし、犀門が母親になればいいとささやきます。

 

早速、犀門が少女の実家を訪れたところ、生まれた子どもはもうそこにはいなかったものの、馬宮(まみや)という15歳のΩの少年だということが判明します。αではないことが早々にわかってしまったのに、一目会うまでは諦められなかった犀門は、なんとか馬宮を探し出します。13歳で男に弄ばれて捨てられ、不幸なまま死んでいった母を見続けてきた馬宮は、英財閥の現当主の隠し子であることを知らされたところで、Ωである限り社会で虐げられるのは目に見えており、それなら好きに生きて野垂れ死んだ方がマシだと犀門を突き放します。

そんな会話の最中、馬宮のうなじにΩであることを示す焼印がないことに気づく犀門。Ωは生まれた直後に焼きごてで印を入れられることになっていますが、13歳の母から生まれたために戸籍のない馬宮は焼印を免れることができたため、自分はΩではなくβだと偽って生きていたのです。

そこで犀門は、馬宮をαと偽って英家に迎え入れることを思いつきます。馬宮はαとしての何不自由ない人生を得ることができ、犀門は英家の跡継ぎ候補となりうるαの母になることで征十郎の愛を取り戻すことができます。うまくいけば双方にとっていい話ですが、Ωによる性別の偽証は死罪になる可能性もあります。それでも、馬宮は考えた末に犀門の命がけの提案に乗ることに決めます。

 

突然現れたαの男性という有力な跡継ぎ候補に、動揺を見せる英家の面々。この後、女であるがゆえに祖父に疎ましがられていても跡継ぎを目指す麗子や、出来の悪さから半ば見放されているものの、馬宮とは妙に気が合って親しくなっていく伊織をはじめ、一筋縄ではいかない人々の思惑が複雑に絡み合いながら、物語は進んでいきます。

 

“オメガバース”という特殊な設定であっても、厳然たる階級社会や、決して超えられない性差による差別意識などは、私たちの現実社会にもどこか通ずるところがあるからか、登場人物たちの苦悩がリアルに感じられます。また、α、β、Ωという階層の壁を超えて惹かれ合う恋愛にもドキドキさせられます。

なりふりかまわずαの征十郎の愛を強く求めるがゆえに、どこか狂気と滑稽さが混在する犀門。一蓮托生のパートナーとなる馬宮は、不幸な生い立ちを乗り越えてきた聡明で美しい容貌の持ち主。そんな彼らが、周りは全員敵状態の上流階級でどのように生き抜いていくのでしょうか? 「メガエラ」とは復讐の女神の名前のこと。華やかでドラマチックで、ドロドロな恋愛要素もたっぷりの展開に目が離せません。私は、「コミックDAYS」で読みはじめて止まらなくなり、3巻分を一気に購入してしまいました。昼ドラ的愛憎劇の“沼”にようこそ!

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『オメガ・メガエラ』(1)

丸木戸 マキ (著) 講談社

優れた性とされるα(アルファ)が支配する世界。αを産む宿命を背負うΩ(オメガ)の人生は、αの子供を持てるか否かにかかっていた――。財閥一家である婚家・英(はなぶさ)家で子を生せず疎まれていたΩ・犀門(さいもん)は、一人のΩの少年をαと偽り、英家当主の座を狙わせるのだが…!? 性別による身分社会で最下層の、Ωたちの闘いが始まる…!