世界には196カ国の国が存在しており(外務省データ)、毎日ニュースでは海外の政治や社会情勢、紛争などが流れてきます。でも、世界のあちこちでは、日本の報道では知り得ない出来事が頻発しています。歴史を振り返ってみても、人と人が集まれば小さな揉め事が起き、やがて内戦や複数の国を巻き込んだ戦争になっていくことは多々あります。そうなる前に、双方にとって納得のできる解決方法はあるの? そんな時、颯爽と登場するのが、『紛争でしたら八田まで』の主人公で、「地政学リスクコンサルタント」の八田百合なのです。

去年11月から「モーニング」で連載が始まった『紛争でしたら八田まで』。広告やデザインの仕事を経て43歳で週刊誌初連載という作者の田素弘(でん・もとひろ)さんの経歴も気になるところですが、一話目を読んで、「これは私のツボだ! 絶対面白くなる!」とテンションが一気に高まりました。

 

物語の主人公は「地政学コンサルタント」の八田百合(はった・ゆり)。さらさらのストレートロングヘアにミニスカート姿、食への飽くなき好奇心の持ち主です。食べ物からその土地の文化が垣間見えるので、職業柄かと思いきや、ただ単に食べることやお酒が大好きなだけのように見えます(そこもまた親近感がわきます)。彼女が拠点としているのは、所属している会社の本社があるイギリス。とはいえ、だいたいは世界中を飛び回っているようです。

久々のオフでふらりと立ち寄ったイギリス・バーミンガムのパブ。店番の少年と会話をしながらビールを一杯やっているところ、怪しい風貌の男が店を訪れ、店にアイリッシュビールがないことに怒った男が少年に絡みます。

 

その様子を見ていた八田は、アイルランドで醸造され、北アイルランドで樽詰めされたウイスキーを差し出して、「大人同士さ、穏便に交渉しない?」と話を持ちかけます。

 

ところが、頭に血が上った男との間に会話が成り立つわけもなく、拳銃を振りかざしてきます。そこで八田はすかさずシャイニングトライアングル(プロレス技)を決めて男をまたたく間に制圧してしまいます。

 

このパブでの一件ですが、長年イングランドとアイルランドは隣同士にありながら、長年一筋縄ではいかない関係性にあり、イギリスのEU離脱によってイングランドとアイルランドに新たな歪みが生じてしまったという背景があります。そこに経済格差や人種問題などが複雑に絡み合い、中にはこの男のように過激な行動を取る人もいるというわけです。

 

ビールを飲んで一休み、というわけにはいかなかった八田の元に、次の仕事の依頼が舞い込みます。行き先はミャンマー。

 

現地に飛ぶ前に八田が訪れたのは、ニューアム・ロンドン自治区のアップトン・パーク。彼女の目的はこの地域に暮らすミャンマー人を通じて、ミャンマー語をはじめとしたあらゆる情報を頭にみっちりと詰め込むこと。どんな手段でミャンマー人と接触したかはぜひ「試し読み」で確認してみて! その大胆かつクールな駆け引きの様子は、ここでネタバレするのはあまりにももったいなく……。

 

いよいよ八田がミャンマーに向かうところで一話はおしまい。この一話の中に、強烈な個性を放つ八田がどういう人間かを印象付け、イギリスのパブを舞台に地域同士の対立をチラ見せ、さらには、巧みな交渉術を盛り込みつつ、「地政学リスクコンサルタント」としてプロの下準備まできっちり紹介。この一話の“ツカミ”の力強さと面白さに、作品への期待が、否が応でも高まります。

 

なんといっても最大の魅力は八田百合本人! 黙っていれば一見清楚で容姿端麗なのに(といいつつ、あらゆる国で“ビッチ”に見られがち)、頭脳明晰で頭の回転がいいだけに、口を開けば印象はガラリと一変。言葉のチョイスがいちいちかっこよくて、八田のセリフが小気味よく響きます。さらにはトラブルの現場を乗り越えるために伊達に場数を踏んでおらず、腕力にも自信あり。彼女が大好きなプロレス技が随所で炸裂します。「チセイを使って」紛争を解決するのが彼女のお仕事ですが、腕力で解決するパターンの方が多いような……。でも、よく読むと、パブの時でもいきなり腕力に頼るのではなく、まずは穏便に会話での交渉から入っていましたね。

ところで、「地政学」とは、地理学と政治学が合わさったようなもので、地理的な環境や条件が、その国や地域の政治、軍事、経済に与える影響についてマクロの視点で考える学問のこと。この作品を読んでいると、世界中のあちこちで頻発している紛争は、どちらか一方が悪いというように白黒はっきりつけられるものなどなく、それぞれに事情があり、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることがわかります。だからこそ、勃発したトラブルを解決するためには、その背景を詳細に分析した上で、「チセイ(地政+知性)」をフル稼働できる八田のような人物が必要になってくるわけです。

普段の生活ではなかなか馴染みのない国が出てきて、その社会情勢(とローカルな食文化)を知ることができるのも、この作品の見どころの一つ。6/23(火)に2巻が発売されたばかりですが、1巻ではミャンマーとタンザニア(後半は2巻に続く)、2巻ではイギリス、ウクライナを舞台に八田がチセイを駆使し、暴れまくりつつ、紛争を解決に導いていきます。知的でクールでチャーミングだけど、ちょっと抜けているところもある八田の魅力にがっつりハマります!
 

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『紛争でしたら八田まで』(1)

著 田素弘 講談社

海外のことがちょっと楽しくなる新連載! 民族、言語、思想。違えばやっぱり、事件は起きる。住む場所変われば、起きる事件も、もちろん変化! それを眼鏡美人・八田百合、チセイ(と荒技)で東南アジアの民族問題、アフリカで起きる恐ろしい事件、ヨーロッパで起きる企業問題を解決!? 荒み疲れ果てた世界を、彼女が救う…!!