コロナ禍の対応に追われる世の中。それは学校という“職場”も例外ではありません。休校要請にリモート授業、授業再開に夏休み、そして学習の遅れを取り戻すための対応――。こうした非常時の混乱は想像に難くありませんが、内田良さん監修の『マンガ 中学教員日記 今日も働き放題』では、先生たちの労働環境が普段から過酷であることを教えてくれます。

中学校で2年生の学級担任を受け持つ佐藤達也先生たちの日常を覗くと、「これも先生がやってるの!?」という仕事が盛りだくさんなことに驚くはず。学校では何が起こっているのか、教職員の働き方改革がなぜ進まないのか。聖職者といわれて苦悩する先生たちへの理解を深めるべく、本作の主人公・佐藤先生の言葉を一部抜粋しながらその実情をご紹介します。

4月1日は新年度がスタートする日。春休み中で生徒は休みですが、教員は休んでいられません。学校全体の仕事では、年間行事の検討、部活動顧問の決定、体育祭の種目及び時程の検討、避難訓練の年間提案などの職員打ち合わせがほぼ毎日。

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学年の仕事では、新学年のクラス編成、修学旅行等行事の立案、予算案決定などがあります。多くの場合、職員打ち合わせの後に学年打ち合わせを行い、担当を決めます。学級担任の仕事では、名簿作成、ラベルつくり、机の数をそろえる、クラス掲示物の作成、個別対応が必要な生徒・保護者への連絡などがあります。

新年度は、各教員がこれらの仕事を同時進行させながら、全職員で入学式の準備をします。会場準備、新入生への配布物の作成・準備、氏名の確認、受付名簿の作成、ライブモニターの準備など。ここまで3〜4日。時間にみあわない、途方もない量の仕事です。

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国語、社会、数学、理科、英語の5教科の成績は学年ごとに各教科の教員がつけます。マンガは1学年230人の設定です。5教科の教員はそれぞれ230人ぶんの成績をつけるのですが、音楽、技術・家庭、美術など3学年全部をみている教員は、約700人ぶんの成績をつけることになります。「授業さえなければ仕事ができるのに」と本末転倒な考えが頭をよぎります。

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夏休み中も教員は学期中と変わらずに仕事をしています。会計は一年を通してたいへんな仕事です。まず、各家庭から給食費や教材費が振り込まれているか口座を確認し、滞っている場合は「入れてください」と文書にして、その家庭に連絡します。それでも滞った場合には何度も何度も電話します。

こうした事務仕事が教員を疲弊させています。学年ごとに事務職員が必要です。事務仕事は、教員が授業のあき時間におこなうのでは絶対に終わりません。結局、部活のあと、夜にデスクに向かうことになります。

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中学校の教員の働き方が「過労死ライン超え」とニュースになり、部活のことがとりあげられるようになりました。そのおかげで最近は、土日の両日あった部活が、顧問の裁量でどちらかは休みをとりやすくなりました。しかし、とりやすくなった、というだけで、実際にとれないこともたびたびです。練習試合など対戦相手がある部活は、顧問だけでは調整できません。

土曜日の試合を予定する場合、なんらかの事情で延期することもあるので、日曜日もあけておかないといけません。試合の組み合わせが決定するのが3日前ということもよくあり、自分の土日の予定を立てることはできません。当然、家族から非難されます。子どもが小さいうちは、配偶者がワンオペ育児になってしまうという問題があります。

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教員はまじめな人が多く、自分で自分の首をしめているのではないかというぐらい働いています。どんな仕事でも「生徒のために」と言われると、「できない」とは言えません。よく「魔法の言葉」といわれますが、「悪魔の言葉」ともいえます。

これは教員がやる仕事なんだろうか、もっと削減できる仕事はないかーー。しかし、その疑問を相談したり、深く考えたりする時間がありません。まず睡眠時間、食事時間、できれば家族との時間をとろうとするだけで、精一杯です。

教員の働き方、そして生徒との向き合い方がこのままでいいのか。リアルな現場から問題提起したいと思います。

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『マンガ 中学教員日記 今日も働き放題

監修:内田 良/漫画:田中へこ 講談社 1500円(税別)

教員の「働き方改革」を訴える内田良先生(名古屋大学准教授)が監修した、中学教員の実情と本音を描いた本書。魅力ある仕事といわれながら、なぜ学校を去る教員が絶えないのか? 子どもをもつ大人たち全体の労働環境を考える、きっかけを与えてくれる一冊です。

構成/金澤英恵