手付丸茶杯&高台丸茶托×沖縄安田珈琲

 

「中国茶にも珈琲にも使えるものを、と作った茶杯と茶托です。とても小さく平面的な持ち手は、指の先で持たないといけないから、自然と所作が綺麗になる。美しい行為をうながすものとしての器でもありますね。『菓子屋ここのつ』溝口さんとの茶会は、中国茶や抹茶以外に、煎茶、珈琲、紅茶などいろいろなお茶を淹れ、糧菓と合わせる。異国の食文化が混じり合う日本ならではの茶会なんです」(安藤さん)

 

輪花反深鉢×軽羹と牛乳アイスのサンデー

 

「これは糧菓を作る溝口さんを困らせたいと思ってかたちづくった器。僕は、ろくろを使わず、粘土の板を型に当てて成形するタタラ作りで制作しますが、これまで培った技術のすべてを踏襲して、糧菓が絵画のごとく見えるよう構築しました。彼女が、どんな菓子をどう盛り付けるか楽しみでしたね。ぽってりとした釉薬は、17世紀オランダのデルフト陶器をイメージしているけれど、当時はこんな形の器はなかった。古物の意匠を現代に蘇らせる面白さのひとつですね」(安藤さん)

亜麻釉ちぎりゆがみ反鉢×阿波番茶&みかん

 

「中国茶の淹れ方のひとつに碗泡(ワンパオ)式という、碗型の器に茶葉と湯を注ぐ方法があります。本の最後に収録した『交種茶会』で、自作のゆがみ鉢を碗泡の器に見立てました。この茶会では、種類の違う茶葉をブレンドして体験したことのない味わいを引き出したり、茶と果物を合わせるなど、中国茶のスタイルの中で新たな試みをしています。ゆがみ鉢や小彫刻をレンゲ台に取り入れたことで、道具の面でも僕たちが目指している日本流の中国茶席、新しい喫茶のかたちが生まれたと思える瞬間でした」(安藤さん)

器、茶、糧菓がおたがいを引き立てあって生まれる茶席の様子、いかがでしたか?豊かな時間の流れを感じられる美しい本。ぜひ手に取ってみてください。

『茶と糧菓−喫茶の時間芸術』

¥4500(税別)/小学館

陶作家・安藤雅信の器と彫刻による茶席、「菓子屋ここのつ」溝口実穂による菓子と料理の境をゆく糧菓が織りなす、新しい喫茶のかたち。茶、菓子、料理、器を愛するすべての人に安らぎと発見にあふれた茶の楽しみ方を提案しています。


【著者プロフィール】

安藤雅信

陶作家、「ギャルリ百草」廊主  1957年生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科卒業後、彫刻と焼物を生業とし器から現代美術まで幅広い分野で活動を続けている。茶道、中国茶など茶文化にも造詣が深い。1998年、古民家を移築し「ギャルリ百草」開廊。著書に『ギャルリ百草 美と暮らし』(ラトルズ)、『どっちつかずのものつくり』(河出書房新社)。監修した書籍に『茶味的麁相 中国茶のこころ』(李曙韻著・角川書店)www.momogusa.jp

溝口実穂
「菓子屋 ここのつ」主宰  1991年生まれ。幼い頃から祖母の影響で菓子作りに興味を持つ。栄養士、調理師、和菓子店などを経て、23歳で菓子と茶のコースを提供する茶寮「菓子屋ここのつ」をはじめる。日本に古くから伝わる事を身を以て学び、変わらずともよいこと、変えてゆくべきことを、菓子と体験型舞台である茶寮を通し“時間芸術”として表現する。本書が初の著書となる。@_____9__

写真/鈴木 靜華
構成・文/衣奈 彩子
 
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